「ブワンッ」

でも忘れていた、この道はシベリアンハスキーのリタがいる家の前を通らなきゃいけないってことを。

「ヴ~」

と、低いうなり声を出した。

キィッと私たちを睨んでけん制してる、彗くんの大きな声に反応しちゃったんだ。

「ブワワワワンッ!」

「きゃあっ」

噛みつかれるんじゃないかって思うくらいすごい勢いで吠えられたから怖くなって彗くんの腕にしがみついた。

犬は苦手なの、小さい頃追いかけられてからずっと今も苦手で近付けないほど怖いんだよ。

いくら首輪が繋がれてるとはいえ、大きな体にドスのきいた吠え声はグサグサと体に刺さってくる気がするから。

「彗くん…!」

きゅぅっと彗くんの腕に両手で助けを呼ぶようにしがみついた、んだけど。

「ししし、紫衣ちゃん!おちっ、落ち着こうね!!」

あ、これは彗くんも苦手っぽい。全然落ち着けてないしいっぱいいっぱいの顔してる。

「ヴ~…ッ」

リタはもう一度勢いよく吠える助走をしてる。

この状況どうしよう、私の体も震えていたけど掴んだ彗くんの腕も震えてた。

やばい…!
動けない、足がすくんで…っ

「紫衣ちゃん逃げよう!」

ギュッと私の手を握って、そのまま引っ張って彗くんが走り出した。

さっきまで体が重くて動けないって思ってたけど、彗くんに手を繋がれた瞬間急に軽くなった気がした。

怖いと思っていたドキドキが違うドキドキに変わる。

ちょっとだけリタに感謝しちゃったかもしれない。