パブリックダーリン~私と彼と彼氏~

「他は?」

「え?」

「他に何を知りたい?」

たくさん聞きたいことがあるんだけどなぁ、急にそんなこと言われて何から聞いたらいいのかわかんなくなっちゃって…上手く頭が回らないんだもん。

ふとさっき少しだけ彗くんに会ったことを思い出した。

「今…彗くんは、どうしてるの?」

どーしてうちにいるの!?って驚いた顔をしてた。

それにあの日、初めてデートをした日…途中から全部を覚えていなかった。

ということはこうしてる今、彗くんは何が起きてるか知らないってことだよね?

「今!彗くんはどこにいるの?何してるの?」

「眠ってる」

眠ってる…?
心の中で眠ってる、ってことなのかな。

「本人眠ってる意識なんてないだろうけどな」

「え?どーゆうこと…」

静かな口調はどこか冷たく、凶器みたいに突き刺さる。

「彗は俺のことも知らないから」

すぅっと息を吸ったまま、吐くのを忘れてしまった。見開いた目の中に入って来るのは彼しかいなくて。

「別に、よくあることだ」

「…。」

「この体の主人格である柏木彗が別人格である俺の存在も知らなければ、こうやって人格が交代してることも気付いていない」

淡々と話されることに頭が追い付かない。どんどん置いてかれるみたいで大きく開いた目を閉じることもできないまま。

「眠ってるって言うのは表現の一環で、人格が交代してる間は主人格の意識は分断されるから記憶がないってことだ」

話し方も言葉遣いもちっとも彗くんじゃないこの人の話は私には難しくて。

「一概に二重人格って言っても症状は人によって違う、あくまで彗の場合だけどなこれは」