ポロッと流れる涙を手で拭おうと頬に…


「ブワンッ」

「!?」


触れようと思ったのに、この瞬間ピタッと涙が止まった。

止まったってゆーか引っ込んだ。


この吠え方は…

リタだっ!!!!!


「ヴ~」

そうだ、ここはリタのいる道だった。
つい考えごとに夢中で気付かないままここまで来ちゃった。

それなのに大きな声出しちゃった…


絶対吠えられる! 


恐る恐るリタの方を見て見ればじーっと下から睨むように私の方を見て、一瞬たりとも逃がさない目をしている。


ど、どうしよう…


少しでも動いたら勢いよく吠えられるんじゃないかって思うと涙を拭おうとした手を戻すこともできなくて。

「…っ」


わぁぁぁぁ…っ

えっと、おおお落ち着いて!

あのっ、とりあえずここから逃げればいいよね!?

走って逃げれば…っ

「ヴ~…」

さらに低くなったうなり声にビクッと体が震えた。

やばい、変な汗がダラダラと出て来る。

に、逃げるんだ早く!
せーのっで走り出すんだ!
走って、走れば…

ゴクンと息を飲む。

どうしようっ、足がすくんで動けない。


助けて誰か!

助けて彗くん…!!


「ブワ…ッ!」

「いやっ」


ぎゅっと目をつぶった。

大きな口で吠えられるのが怖くて見られなかったから。

わーーー…っ
どうしよ、どうしよ…!?

「…っ」

絶対吠えられる…っ!


「よしよし、元気だなお前」


………え?


聞いたことある声だった。

でもそんなことしないはずと思いながらゆっくり目を開けた。

「ごめんな、驚かして。声でけぇからびっくりしただろ」

リタの前にしゃがんでわしゃわしゃと頭や体をなで、目線を合わせながら言葉をかける。


それは紛れもない私の知ってる人…


「彗くん?」