「しーえちゃんっ、一緒にかーえろっ!」

「……。」

1人で帰ろうと思ってさっさと教室を出て来たのに彗くんが追いかけて来た。

しかもめっちゃくちゃご機嫌に、昨日のことなんてなかったことのように…

ってなんで彗くんがなかったことにしてるの!?

って思ったらむすっとしちゃうじゃん!

「私、今日は1人で帰るから」

「え、なんで?いつも一緒に帰ってるのに!?」

「そのなんでかは胸に手当ててよく考えてみて!!」

ふんっと鼻を鳴らして走って下駄箱まで向かった。

記憶にないって何なの!?

普通に考えて意味わかんないんだけど!

なんでいつもみたいにニコニコしちゃってんの!

「…っ」

キス、したこと覚えてないって言われたら私どうしたらいい?

あのキスはどうなっちゃうの?


怖くて聞けないよ。


「…もうわかんないよ」

忘れてやる!って思ったはずなのに、忘れられたらこんなに胸がきゅーって締め付けられたみたいになるんだ。

やっと軽くなってきたまぶたがまた重くなっちゃうよ。


ずびっと鼻をすすりながらとぼとぼと歩く1人の帰り道、隣に誰もいないのが寂しくて。


楽しみにしてたのにな、昨日のデート。

ううん、楽しかったんだけどね途中までは…
他愛もない話して、2人で笑って、クレープ食べて、彗くんといられるのが嬉しくてずっと彗くんのこと考えてた。

もしかして、キスだってしちゃうかもしれないってドキドキしながら隣を歩いてたのに。


なのに、どうして覚えてないの?


なんで記憶にないなんて言うの?


そんなのひどいよ…


「彗くんのバーカッ!!」


あぁ、また涙が出て来ちゃう。


だって悲しいんだもん、私だけの思い出みたいじゃん2人の思い出なのに。



2人の思い出みたいなキスがしたかった。