「紫衣!お待たせ、行こ…紫衣?どうした?」

自販機の前、フルーツ・オレを握りしめたまま立っていた私を美月が呼びに来た。

柏木先輩はもう行っちゃった後で、私も行かなきゃって思ったのに足が動かなかった。


どうしても動けなかったの。


「紫衣?何っ、何かあったの!?」

「美月…」

私の顔を見た美月がびっくりしてた、その場に立ち尽くしたまま泣いてたから。

自分でもわからない、だけど涙が次から次へと溢れて来て胸が苦しいの。


苦しくてたまらないの。


こんな気持ち、どうしたらいいの…っ


「紫衣っ」

「美月…っ!私ね、彗くんのこと好きなの!」

上手く声にならない声で、握りしめたいフルーツ・オレをはもうぬるくなっちゃってた。

「大好きなの、それは本当なの…っ!」

大粒の涙がポタポタと溢れて来る。

もうぐちゃぐちゃだ、何かもぐちゃぐちゃだよ。

「だけど彗くんを思うと苦しい…っ」

わかってたのにわかってなかった、あれが最後になるなんて。

思い出すと胸が痛い。

締め付けられるみたいに息が詰まる。


なんで会いたいなんて思っちゃってるの?


「紫衣…」

体を震わせながら泣く私の背中を美月がさすってくれる。

「それは柏木に話せばいいよ」

言えないよ、こんなこと。

「ちゃんと柏木に、話せば伝わるよ」

無理だよ、だって彗くんを悲しませちゃうもん。

悲しませたくはないの、彗くんには笑っててほしいの。

「紫衣が柏木のこと好きなのは私は知ってるよ」

美月が寄り添うように、私の頭をぽんっとしてなでた。

「だから大丈夫!」