「そんでかーちゃんはさぁ、にーちゃんが行っちゃうからさみしいって…」

校舎から出て校門へ向かって歩く、まだ2月なのにすっかり春な気温にしっくり来なくて。

「言いながら一緒におみやげ考えたりしてんの、おもしろくない?おみやげ買ってきてもらう気満々なの!」

眉をハの字にして笑ってる。

困ってそうに見えてほんとは困ってなくて、それも悪くないって感じの。

「…こないだかーちゃんが買って来たケーキみんなで食べたんだ」

いつもは私に合わせてくれる彗くんの歩幅が今日だけは少し早くて、ちょっと後ろをついて歩いた。

「なんかぎこちなくてさ、オレん家ってこんなんだったんだなーって…オレの中ではずーっと普通の家族だったんだけどね」

たぶんどうゆう顔していいのかわからなくて、自然と速足になっちゃったんだと思う。

「いつから普通じゃなかったのかな」

彗くんもまだまだ戸惑うことばかりなんだ。

「これから普通になっていくよ!」

それでも少しずつ、変わっていけたら。

彗くんのこれからが彗くんにとって笑顔溢れる未来になるように。

「そうだね、無駄にできないもんね…してくれたこと」


誰が?
なんて1人しかいないから。


「…うん」



あれからケイには会ってない。

ケイが現れることはもうない。



“じゃあな、紫衣”


あれがケイの最後だった。



もう会えるわけないの、あたりまえだけど。