「だって柏木も何のことかわからないって感じだったんでしょ?」

「うん…」

「じゃあ柏木物凄く演技上手なんだね」

「ねぇそれってどっち!?どっちが演技なの!?」

やっぱり私は騙されてたのかな?

今もずっと彗くんは嘘をついてるの?

「だけど今のあれが演技、とは思わないけどね」

缶コーヒーを飲んでふぅっと美月が息を吐いた。

クラスのみんなの前で笑ってる彗くんをそんな風には思えなくて、私もうんと頷いた。

「そうだよね…」

豹変した瞬間何が起きたのかよくわからなかった。

どうして彗くんが変わっちゃったのか、一緒にいてもわからなかった。

消えない違和感がずっと残ってるの。

「もうこれ以上何も言えないよ、私が見たわけじゃないから」

私もわからないんだもん、美月がわかるわけないよね。彗くんが彗くんじゃないなんて、本当に夢の話みたいだよ。

「で、どうだったの?」

「え、何が?」

いっぱい美月に聞いてもらったおかげでやっとお弁当を食べる気が出て来た。いただきますと手を合わせて、箸でからあげを掴んであーんっと開けた口に持っていく。

「柏木とキスした?」

「!」

そっちの話にいくと思ってなかったから、わかりやすく動揺しちゃってころんっとからあげが机の上に転がった。

「あ、したんだ?よかったね」

にやりと笑う美月に開いた口が塞がらない。

だってそれは…!

「し、してないよ!」

「絶対してるじゃんそれ」

「した…っ、え、してない!?した…っ?」

「何言ってんの?」

転がったからあげどころじゃない。


え、待って…



キスは?


キスのことは…?



聞いてないけど、彗くんの中にキスの記憶はあるの?



キスも覚えてないの…?