「柏木先輩、留学するの!?」


あれからしばらくしてケイに話があるって呼び出された。

てゆーか毎日一緒にいるのに呼び出されるって変に緊張して何言われるのかなってドキドキしちゃったじゃん、しかもそれっぽく屋上まで呼び出されたから。

「こっちの大学行くつもりだったんだけど、1回母親から離れてやってみたいってなって」

「…そうだよね、受験生だもんね柏木先輩のことならしっかり勉強してたよね」

「あぁ、それも母親の希望だったけど…話し合ってとりあえずは落ち着いた。最初は揉めたけど母親も兄貴が大事なだけなんだ今は納得してる」

2学期最後の登校日、終業式が終わったところ…12月終わりの屋上は寒くて。

ケイは柵に背中を預けるように寄りかかった。

「兄貴…謝ってた、彗に」

「そっか…」

ケイって柏木先輩のこと兄貴って呼ぶんだ、いつもはあいつとか星だったのに。ケイにとってもお兄ちゃんだったのかな。

「兄貴も限界だったんだよ」

これで、変わるのかな。

今までのこと少しずつ、変わっていったらいいなぁ。

彗くんがあの家で笑顔に暮らせるようになったらいいなぁ。

だけど…

「やっぱり私は許せない、かもしれない」

少し俯きながらきゅっと柵を握った。

やっと終わるのかもしれないけど、それはよかったなぁって思うけど…

そんな簡単に許せない、私なら。

私がとやかく言う問題じゃないのはわかってるんだけど。

ケイが私の方を見て微笑んだ。

いつもより優しくて柔らかい表情だった。

「紫衣はそれでいいんだよ」

慣れない表情にちょっとだけくすぐったい気持ちになる。

「彗にとったら兄だから許すのも必要だけど紫衣は…彗のことを1番に想ってくれたらそれでいい」

誰より彗くんのことを想ってるのはケイだと思うけどね。

ケイがいたから、ここまで…

「あ、お母さんとは…どうなの?彗くん、お母さんともあんまり…なんだよね?」

「それは…これからだ、母親が兄離れできたら変わっていくだろ。親子関係はこっから再構築だ、兄貴も彗も」

「そうなんだ…」

どうにかなるものなのかな、彗くんに対してお母さんもだいぶ厳しかったようにしか思えないけどいろいろ心配だなぁ…

「でも大丈夫だろ」

「え?」

「紫衣がいるからな」

私を見て笑うケイはやっぱりくすぐったい気持ちになる、だってそんな穏やかに笑う顔見たことなかったんだもん。

ケイにもやっとそんな日が来たんだね、穏やかになれる日常が来たんだね。