「あ、にーちゃんに会ったよね~!」

それなのにカラッとした彗くんの声は変わらなくて。

「まぁ手振って終わりーって感じだったけど、紫衣ちゃんに紹介できてよかった~!にーちゃん頭いいしカッコいいしすげぇから!」

「え…?」

全然紹介された記憶はないんだけど…

「あの、えっと…そこも気になるけど!私が言ってるのはそのあとね?」

「あと?」

「うん、あと。ほら、彗くん急に声が低くなって目つきもこんな吊り上がっちゃって!」

両人差し指でそれぞれのまぶたをクイッと持ち上げる、グーっと引っ張るようにして昨日の彗くんの目の形を再現して見せた。

「え~紫衣ちゃん変顔?全然怖くないよ~!」

ふふふって彗くんが笑った。


いつもの彗くんで、私の好きな彗くんだった。


「………。」

笑った顔が可愛い…


じゃなくて!


「めちゃくちゃ態度悪かったよね!?」

「…ごめん、そんな態度悪かった?あ、声!?オレ声でかいよね!?だからリタにも吠えられちゃって」

うん…、全然そこじゃないっ!!

てゆーかリタに吠えられた記憶はあるの!?

じゃあ、どうしてそのあとのことがわかんないの…っ

「彗くん、…本当に覚えてないの?」

「え…他に何かあった?だってそのあとって、にーちゃんに手振ってばいばいしたぐらいだし。そしたら紫衣ちゃんも帰るって言うから」


「………え?」


私の中の記憶と全然違うんだけど…

そもそも柏木先輩にそんな感じに手振ってたかな?

柏木先輩に敵対視してるような“声”しか私には記憶にないけど…

でも不思議と今目の前にいる彗くんが嘘をついているようには見えなかった。


それはなんでなんだろう。


「?」

不安そうに彗くんが私を見てる。

なんで私が変なこと言ってるみたいになってるの?

あれは夢?幻?

何かの見間違いなの…?