教室に戻って教科書を用意しようと…

「……。」

みんな音楽室に行っちゃったみたいで誰もいなかった、ぽつんっと自分の席に座って窓の外を眺めるケイ以外。

「ごめん、紫衣お待たせ!行こっか、音楽室!」

「美月、ごめん…」

一度私と目を合わせた美月が教室の方へ目を向けた。私が続きを言う前に悟ったみたいで笑って返された。

「いいよいいよ、わかった!じゃあ先行くね!」

「うん、ごめんねっ」

彗くんと付き合ってから学校から帰る時は一緒だったけど、お昼は美月といて移動教室も何でも基本的には美月といることが多かった。


彗くんも一緒で友達といることが多かった。

彗くんには彗くんを好きな友達がいていつも賑やかで、私はそんな彗くんを見るのも好きだったから。


1人でいる彗くんは見たことがなかったの。


「ケイ、もうすぐ授業始まるよ」

「…“彗”だろ、誰かに聞かれてたらどーすんだよ」

ふぅっと息を吐いてケイが立ち上がった。机から出した教科書と筆箱を持ってわきに抱えズボンのポケットに手を入れた。

「でもケイじゃん、…今はっ」

私の隣を通り過ぎて教室を出ようとした。

「ケっ」

「紫衣!」

「っ」

力強い声で言われたからちょっとだけビクッてなった。

「…なに?」

「俺に近付くな」

振り向いた私の顔も見ないで背を向けたまま、急にそんなこと言われて気持ちが一気に揺れた。