「そうやって猫被るのやめてくれる?」

キリッと眉を正す、今更そんな顔されても騙されないよ。

もうわかってるんだから、本当は彗くんが…そんな人じゃないこと!

「猫…被る?」

キョトンとして首を傾げる。

そんな顔で言っても、私には効かない。

全部嘘なんでしょ?
可愛いフリして、本当は…

「あ、オレ猫は好き~!可愛いよねーっ、猫に顔埋めて被ってるみたいなのいいよね~!」

「………何言ってるの?」

正した眉が中心に集合した。

ヘラヘラと笑う彗くんがよくわからなくて。

「ふざけないでよ!昨日のこと忘れるわけないでしょ!?」

忘れたいのはこっちだよ。

忘れたいんだよ、だけどあんなの忘れられるわけないじゃん…

また泣きそうになっちゃう。

「え…ごめん!全然記憶にないんだけど、オレ紫衣ちゃんに何した?紫衣ちゃんに嫌がることしたなら謝るから!」

「……。」

めちゃくちゃあるんだけど?

それ本気で言ってるの…

眉をハの字にした彗くんが少し下を見ながらキュッと肩をすぼめて寂しそうな顔をしてる。


どうして記憶がないの??


もういいよ、じゃあ思い出させてあげるよ。

何があったか全部…

「昨日…」

「昨日?」

「急に豹変したみたいに人が変わったじゃん!睨んだり、冷たくあしらったり、強引に抱きしめて、強引に…っ」

この続きは言えなかった。

覚えてないって言われたら、やっぱり悲しくて。

「柏木先輩に会った後…っ」

涙が目に溜まる、必死に止めておかないとこぼれ落ちそうになってしまうから。