柏木先輩の部屋は彗くんの部屋と違ってあまり物がない部屋だった。

白と黒のモノトーンで統一され、漫画もゲームもテレビもない参考書のぎっしり詰まった本棚に勉強机が置いてあるだけ。

それが余計に緊迫感を増加させた。

柏木先輩がゆっくり近付いて来る、思い切り床に打ち付けられたせいでジンジンする体はすぐに立ち上がることができなくて。

「…っ」

右の口角だけを上げ、睨むような視線で私を上から見てる。

目を離したら何かされるんじゃないかって思うとじっと見返すしかなくて… 

たぶんドアにカギはついてないよね、だから閉まってるだけだと思う。でもドアは柏木先輩の後ろ、辿り着くには超えて行かなきゃいけないんだけど…


絶対捕まる!

するっと抜けていくようなそんな身のこなしできない!無理っ!!


私のおびえた表情を見て柏木先輩は不気味に笑った。

その表情がより恐怖を誘ってドキドキと鼓動が早くなった。

柏木先輩が一歩、さらに一歩、距離を埋めて来る。座ったまま床をはいずるように、後ろに下がって一定の距離を保った。

それでもどんどん近付いて… 

「逃げられると思うなよ」

「…っ!」

トンッと背中が何かにぶつかった。

柏木先輩が近付くたび後ろに下がっていたからドアから1番離れた壁まで来ちゃったみたい、もうこれ以上下がることができなくなった。

やばい、えっと、どうしよう…っ 

呼吸が荒くなる、体が震える。

なんでもっと冷静に考えられなかったの私!

ちょっと考えたらわかったよね!?


彗くんがいるわけないよっ、彗くんが…っ 


彗くんがいなくなっちゃったことばかりに気を取られてた。


もし彗くんが戻って来てくれたなら1番に会いに行きたいって思ってた。


だから気持ちが先走っちゃって焦ってたの。


でも彗くんが1番会いたくないのは柏木先輩だったよね。

そんな柏木先輩の前に彗くんが姿を現せるはずなんかないよね。 


だけどね、彗くんに会えるかもしれないってそんな嘘でも信じちゃうくらい私だってもう限界なんだよ…!