「えっと、あの…」

「彗がね」

少し顔を曇らせた柏木先輩が言った。

「体調悪くなっちゃったみたいで」

「え、彗くんっ…がですか?」

「うん、だから小村さんを家に連れて来てほしいって頼まれたんだ」

それって彗くんじゃないよね、ケイ…だよね?
でもケイが柏木先輩にそんなこと頼むかな…絶対頼まないと思うんだけど。

「来てもらえないかな?」

本当にそんなこと言ったのかな、でも違いますよねって言っていいのかわかんない…

「あの…、彗くん今家にいるんですか?」

「そうだよ、家で寝込んでる」


少しだけ頭によぎる。

私の願望が膨らんじゃって。


もしかして本当に彗くんなの?


彗くんが帰って来たかもしれなくて、急に戻って来たからびっくりしちゃって体調崩しちゃったのかなとかかすかな希望を勝手に生み出しちゃう…

瞳に熱が入って、泣きたくなる。

「心配じゃないの?」

「えっ、そーゆうわけじゃ…っ」

何も言わない私を急かすように柏木先輩が視線を飛ばす。


え、どうなんだろどっちなんだろ?

彗くん、戻って来たのかな… 

いや、でも!柏木先輩だよ!?

柏木先輩のところに彗くんがなんて!


ないよ、ないない!!

あぁっ、でもわかんないっ!


もうずっと彗くんに会ってないんだもん…!   


会ってないから…


会いたいよ。



彗くんに会いたい。



「あ、ごめんもう行かなきゃ彗が待ってるから。小村さんは…どうする?」

「え…?」

「わざわざここまで探しに来たんだけど、木村さんが来ないなら俺はもう帰るよ」

ふぅっと柏木先輩が息を吐いた。

煮え切らない私を置いていこうとして。


急かされてるのはわかってるんだけど…


ケイに連絡したいけど、できない。

考えなきゃ、自分で、えっと…っ


探しに…って本当に?

探しに来たの、私のこと。


本当に彗くんが私を呼んでるの?

だって私が図書館に向かってるってこと、知らないよね?


知ってたってことは、本当に聞いたの?



彗くんから…?



「じゃあね」

この時の私は上手く判断が出来なくて、ちょっと考えたらわかったのに気持ちが焦っちゃってたんだ。


もう頭の中はぐちゃぐちゃだったから。


「待ってください!」

会いたいって気持ちが先走っちゃってたの。


「行きます!私を、連れてってください!」


彗くんに会いたくて。