「紫衣のせいじゃねぇよ」

私の手からテストの答案用紙をスッと引き抜いてリュックにしまった。

「紫衣のせいじゃない、俺のせいだ。俺が彗に説明してたらこんなことにはならなかった」

ケイがコートを着てリュックを背負ったから私も自分の机の上に置いてあったコートを手に取った。

「…彗くんは、ケイのことずっと知らなかったんだよね?」

「あぁ、たぶん最近までは」

「それってやっぱりっ」

「俺が姿を現し過ぎたんだ」

…そうなのかな?

でもそうさせてたのは、私なんじゃないのかな…


私がちゃんと彗くんを見てなかったから。


じわっと瞳が熱を持って視界がかすんだ。
最近の私の瞳はずっとこんな感じ、少しでも彗くんの話をすればすぐに泣きなくなっちゃう。

苦しくなった胸を押さえて、息をしたらほら…
ぽろぽろと涙が流れて来るの。

「紫衣のせいじゃないから」

ぽんっと私の頭をなでた。
少しだけ微笑んで。

頬を伝う涙を手で拭った。

「…ううん、ケイが悪いってことだってないよ。彗くんに言えないこといっぱいあったと思うし」

「言わないと言えないじゃ違うからな、彗が違和感を持ち始めた時点でもっと警戒すべきだった」

ケイが取り乱したのはあの日だけ、彗くんが消えたって教えてくれた日だけだった。それからはいつも冷静で物事を分析するように考えてるみたいだった。

「…でも前に記憶の操作してるって言ってたよね?彗くんの記憶はどうなってたの?」

“紫衣ちゃんとのことを思い出そうと思っても途中で切れちゃってたりふわっとしか思い出せなかったり自分がどこにいたのかもわかんなくなる”

全部が全部されてるわけじゃないのかなって、すごく曖昧そうだったから。だからどうなってるんだろうって思ってたけど…

「操作したとしても、それは思い込ませてるだけだ。いわば洗脳みたいなもんで、本人が事実と異なることを疑い始めたら壊れることもある」

「そうなんだ、そーゆうものなんだ…」

「そこまで万能じゃねぇんだよ、二重人格ってやつも」

別にそーゆうつもりで言ったんじゃないけど、ケイが自分を(いまし)めるみたいに言ったから…そんな風には全然思ってないんだけどなぁ。