「さすがにもう誰もいねぇか」

もうすぐ陽が沈みそうな夕暮れ、窓の外は夕陽がキレイだった。

「あ、まんま置いてあるわ。さっさと片付けて帰るぞ」

教科書も筆箱もリュックも全部置いて来ちゃったから、みんなが帰る時間まで待って図書室に取りに来た。

電気の切られた薄暗いところにぽつーんと虚しく私たちの教科書たちが残っていた。

下校時刻を過ぎたら鍵がかけられちゃう、早く片付けないと。

「……。」

「…。」

リュックを広げたケイがやみくもに教科書を入れる。置いて行かれなうように同じようにリュックに詰めた。

「…さっきはありがとう」

「別に」

窓からオレンジ色の陽が差してる、たぶんあと少しで真っ暗になる。

「ケイって…本当にいつも見てるんだね」

“俺は全部見てるからな”

怖く感じた、全部知られてるみたいで。

監視してるみたいって思った。


でも違うよね、監視してるんじゃなくて見守ってるんだよね。


「彗くんのこと大好きなんだね」

“彗の大切な子だからだよ”

だから私のこともー…

「つらくないの?」

「…何がだよ」

いつも淡々として変わらない表情で自分のことは何も言わない。


言わないから、わからなかった。

一緒にいたのにわからなかったの。 


こんなに守ってもらってたのに…


「ケイが全部背負ってるよね」

「……。」

しまい終わったリュックのチャックを締める。
小さく深呼吸をして、リュックを持つ手に力が入った。

「そんなの…悲しくない?」

「悲しくねーよ」

「悲しいよ!だって彗くんは何も知らなかった!柏木先輩のことだって自慢のお兄ちゃんだって言ってた!いくら彗くんのためにケイが生まれたとしても悲しくないはずないよ…っ」

苦しむ彗くんが生み出した存在なのかもしれない、彗くんの代わりだったかもしれない。


だけどケイだってひとつの人格でしょ?


ケイにだって心はあるんでしょ?


ケイだって傷付いてる…



よね?