「あ、ねぇ紫衣ちゃん…」

両手で持っていたノートを覗き込んだ。急におとなしい表情になった彗くんが伺うように私のことを見た。

「何?」

「紫衣ちゃんとにーちゃんって…何かあった?」

「え…」

学校ではあれやこれや噂されてる。教室いてもどこにいても耳に入って来る、彗くんのところに届いてないはずない…

「ない!何もないよ!!」

これは本当に、本当なの。

「私が好きなのは彗くんだから!」

これも本当に、本当なの…


本当なんだよ?


「うん、それはわかってるからいいよ!」

にこっと笑ってくれる。

そしたら私も笑って…

「でも全然覚えないオレのこと言われるからさ~、それってほんとにオレなの?みたいな」


それは…

笑っていいのかな?

ケイはどう思ってるの?

全部見てるんでしょ?

聞いてるんでしょ?

わかってるんでしょ?


彗くんに何も言ってないんだね。


「あ、もうすぐじゃん!?」

時計を見た彗くんに言われ教室に戻った。
席に着いて教科書を準備しているとすぐにチャイムが鳴って先生が来た。

数学の授業、予習して来たノートを出して…

さっきの字はきっとケイだよね。字上手かったんだね、初めて見たよ。

ケイも授業受けてるのかな?だから問題解けたのかな?

てゆーかもしかして頭いいの?

あれ実はそうーなの!?今度教えてもらおうかな…


「!」


斜め前に座る彗くんが少し振り返って、こっちを見た。

にこって私に微笑んだ。

だから笑って返した…ちゃんと笑って。


“なんだよ”


そう言われるんじゃないかって思っちゃったじゃん。