「なに、おまえ。こいつに惚れてんの?」




 頭がずしりと重くなって、からかうような口調でひそひそと言われる。

 この男は…っ!




「さわらないで!」




 首を(かし)げつつ、ざつに腕をふり払うと、「藤枝(ふじえだ)」と財前(ざいぜん)先輩に注意された。


 やっちゃった…!

 さっきのよいんで敬語を使うの忘れちゃったよ。




「もうしわけありません」


「以後気をつけるように」


「はい!」




 背筋を伸ばして答えると、財前先輩は目を伏せて部屋の外に出る。

 私は108番をにらんで「進みなさい」と言った。




「やれやれ。新顔、おまえは?なんて言う名前なんだ、センセ?」


「…財前(ざいぜん)風真(ふうま)だ。108番」


「財前…ってぇと、法務大臣の息子か。うわさは聞いてるぜ。俺にとっちゃ、天敵ってとこか?」


「私語はつつしみなさい」