財前先輩の冷水のような声が、静かに燃え上がる炎を消化するように、ひやりとその場をおおう。

 ハッと我に返った私は、108番の視線が財前先輩に向くのを見た。

 彼は目を伏せて笑うと、組んだ足をほどいて、床に落ちた道具を拾う。


 …私、108番に圧倒されてた…。

 財前先輩も、あのおえらいさんも動じてなかったのに。

 私だけ…!


 かぁっと、顔が熱くなる。

 なによりくやしかったのは、108番の視線が私には向かなかったこと。

 まるで相手にされていないような気分…。




「ふむ…よろしい」




 おえらいさんは何事もなかったように視察を続ける。

 殺気立っていたVerbrechen(フェアブレッヒェン)は、108番がただひらりと手をふっただけで大人しく作業にもどった。

 看過できない事態だけど、Verbrechen(フェアブレッヒェン)が108番をキングと呼んで従う理由が、わかった気がする…。