いくらお母さんでも聞き逃せない言葉で、唇をとがらせる。

 すると、スマホから《ふふっ》と笑い声が聞こえた。




《わかったわ。…ねぇ、景依》


「なぁに?」


《…体調は、どう?なにも変化はない?》


「…」




 おずおずと聞くお母さんがなにを心配しているのか、すぐに察する。

 大丈夫、って自信いっぱいに言ってあげたいけど、私自身、忘れようとしないと不安が消えないし…。




「…大丈夫だよ。心配する必要ないって。私、元気だし」


《でも…》




 視線を落として、唇を引き結ぶ。

 お母さんの不安を消すことはできそうにない。




《景依…?その…》


「うん…なぁに?」




《――記憶は、まだもどらない?》




 …聞かれちゃったか、なんて笑みが浮かぶ。




「…うん」