校門近くのロータリーに止まっている悠の車を見つけて乗り込んだ。

車内は悠が好きなアーティストの曲が流れていて、私の好きな匂いがする。



「おかえり。疲れた?」


「う〜ん、でもテスト終わったから、ちょっと疲れも飛んでったかな」


「そっかそっか。じゃあ今日の健診終わったら美味しいものでも食べいこう。」


「ああ、そっか、健診か……」


「嫌?だよね、笑」


「う…ん……」


「まぁ、行きたくて仕方ないっ!って人は少ないよね」



手馴れた動作でウインカーを出して曲がって、あとは真っ直ぐ行くだけで病院に着いちゃう。

行きたくないなぁ。
夜星先生、今日は怒らないといいな。
心臓の検査ってまたエコーかな。恥ずかしいから嫌なんだよね。
今日の喘息の検査に着いてきてくれるの夏くんかな、このちゃんかな。
採血あるのかな。痛いのやりたくないな。

はぁ、行きたくない。



「いと、口に出てるよ」


「え、?!あ、ごめんなさい、、」


「いいんだよ。僕だって、患者さんとして病院に行くのは嫌だもん」



ま、今はやる事やろうね、と車を降りて外来の受付へ。
いつもは診察室に入ってから会える悠が隣にいて、「怖いことないよ」と手を繋いでくれる。


本当は今すぐ逃げたい。車に戻りたい。家に帰りたい。
なのに悠が繋いでくれた手は簡単には振り切れなさそうで、胸がきゅぅと縮こまる。

「嫌なんだよね。よく頑張ってるよ」


隣にいる私にしか聞こえないくらいの声で、悠はそう言ってくれた。

悠の顔を見ると目を合わせていつものように微笑んでいる。
嫌なのに。逃げたいのに。
そんな顔で見られたら「嫌」なんて言えないよ。


「終わったら何食べようか」
「ハンバーグとか、サンドウィッチとか、パスタとか」
「いとが好きなハヤシライスは?お店の食べたことないもんね」
「んー、そういえば最近は麺だと素麺しか食べてないよね」
「終わるまでに考えといてよ。で、終わったら二人で食べ行こ?」


健診が終わったあとのご飯の話。
悠はいつもこうして気を紛らわしてくれる。だけど、今は食欲なんて到底湧いてこなくて……