「どうぞ」
バーコードを読み取って、返却期限を告げ、向きを直した本を返すと、カウンターのまえの男子は私を見つめたまま足を止める。
「あの…?」
「あのさ、よかったら連絡先交換しない?俺、部活であんまり図書室来れなくて、今度おすすめの本とか教えて欲しいなって」
「えっ…そ、その…」
うわぁ、こんなこと言われたの初めて…ど、どうしたらいいんだろう…?
こまって視線を泳がせると、ひざの上の頭がうごいて、「わ」と声がもれた。
環先輩は体を起こすと、私を抱き寄せる。
「この子は俺の。貸し出し不可だよ」
紺色のカーディガンに顔を埋めながらそんな声を聞いた私は、そっと顔を上げて環先輩を見た。
いつもゆるゆるとした雰囲気の環先輩は、いま、眉根を寄せ、不機嫌オーラ丸出しでカウンターのまえの男子をにらんでいる。