私に近づいた環先輩は、ほほえみながら私の頭をなでる。

 じゅわりと、頬が熱くなった。




「ふわ~ぁ…聞いてよ、母さんってばひどくてさ。用事があるって言ってるのに、こっちのほうが重要、なんて言って忘れ物届けさせるんだ」


「そ、それは…」


「そのくせ、届けに行ったら行ったでおそいって文句言って、はやく学校行きなさいって追い返すし…横暴にもほどがある」


「お、お疲れさまです…」




 ぐちを言う環先輩をねぎらって、スクールバッグからチョコを取り出す。

 そっと差し出せば、環先輩の顔はふにゃりとくずれた。




「ありがと。やっぱり希色(きいろ)が学校にいるのっていい。…行こ?」


「えっ、た、環先輩っ…!?」




 チョコを口のなかに入れた環先輩は、手袋越しに私の手を握って校舎へ向かう。


 こんなところで、手を…っ。

 それに私、帰ろうとしてたのに…!