紙のにおいでみちた、時間がゆっくり流れるとくべつな場所。
野いちご学園高等部の図書室に初めて来た私は、からからと音を立てて扉を開けたことを、すぐに後悔した。
「すぅ…すぅ…」
出入り口の近くにある受付カウンター。
テーブルの上で組んだ両腕のなかに、そっと頭を入れて眠っている男のひとが、そこにはいた。
だぼっとした紺色のカーディガンに一部つぶされているのは、明るい紫色の、ふわふわした髪。
ながいまつ毛が影を落としている肌なんて、モデルなみの白さで…。
ううん、実際、モデルの撮影現場かと思ったくらい。
「“図書室の眠り王子”は今日もお昼寝中か…珠洲島くん。珠洲島環くん?本を借りたいんだけど」
「んん…なに?」
上級生っぽいひとがカウンターに近づいて声をかけると、モデル級のイケメンさんはまぶたを開いて、とろんとした緑色の垂れ目を上に向けた。
そのとき、私は生まれて初めての。
ひとめぼれ、をしたんだ――。