「へぇ……。立栞はそこ気になるんだ?」
伊緒くんの形の良い目が見開かれる。
「そりゃ、どこからの情報か気になるよ」
コクコクと首を大きく縦にふる私に対して。
「まぁ、詳しくは言えないけど……。この辺りは俺のテリトリーだってことだけ教えとくよ」
そう言い放ち、先ほどと同様、フッと素適な笑みを浮かべた伊緒くんがカバンから取り出したのはいつも彼が持ち歩いているタブレットだ。
伊緒くんが肌見放さず持ち歩いていることからも、彼にとって大事なものだということは薄々予想がついていた。
きっと、あのタブレットの中には私も想像できないような様々な情報が網羅されているのだろう。
「なるほど、そのタブレットにタレコミがくるんだ」と、納得しかけたのもつかの間。
……ん?というか、まさかとは思うけど私達が今日、あのカフェにいるっていうのもそのタレコミで知ったんじゃないよね?
一瞬、頭を過ぎった考えに、私はたらりと冷や汗が頬をつたうのを感じた。
帰り際、千歳に口を酸っぱくして言われたこともあり、私はかなり周りに注意をむけていて。
だからこそ断言できる。
誰かにつけられてたなんてことは、まずないはず。
強いて言うなら、何人かの黒涼生とすれ違ったくらいだ。
ん?黒涼生??まさかっ……!
その瞬間、ピンときた。
「……伊緒くん、そのタレコミってもしかして、黒涼生からじゃないよね?」
「……フッ、どうだろうね?」
今日一番、楽しそうな笑顔で私を見つめる伊緒くんに、私は思わず口元が引きつる。
「……」
絶対に伊緒くん"だけ"は敵に回してはいけない。
機嫌よくタブレットを弄っている彼を横目で見つめながら、私は本気でそう思ったのだった。



