「立栞、心配しないで。美心を先に送ってくから。あと、さっきの人……。なんか危ない雰囲気だったし、黒涼の体育科の人なんでしょ?立栞に変な執着があるように見えた……。気をつけてね?」
帰り際、最後の方は声を潜めつつ、有紗が心配そうに呟いた。
「うん。ありがとう。有紗、美心。今日は巻き込んじゃってゴメン。琥太郎くんがいるから大丈夫だとは思うけどそっちも気をつけて帰ってね」
彼女達を安心させるため、私は優しく微笑んで見せる。
「立栞、家に着いたら連絡するから」
「立栞会長もゆっくり休んでくださいね〜」
「じゃ、お先に失礼します」
未だに不安げな様子の有紗と大きく手を振る美心、笑顔の琥太郎くんを見送った。
そして、3人の背中が見えなくなった頃。
私はようやく緊張の糸が切れたようにふーっと息をつく。
なんだかどっと疲れが出てきたみたいだ。
そんな私に向かって、伊緒くんは優しく「立栞のことは俺が送ってくよ」と声をかけてくれた。
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……そういえば、今まで伊緒くんとこんな風に2人きりになることってなかったかも。
伊緒くんの隣に並び、テクテクと家に向かって歩きながら私はふとそんなことを考える。
他のメンバーとは、生徒会室とか教室で2人きりになることもあったけど、伊緒くんっていつも忙しそうにしてるから。
生徒会副会長で千歳の右腕。
そして、史緒くんの双子のお兄さん。
伊緒くんのことは、正直、そんな基礎的な情報しか把握できていない。
表情がコロコロ変わる双子の弟の史緒くんと違って、伊緒くんは常に冷静沈着で、あまり感情が顔に出てくるタイプではないのも要因かもしれないけれど……。



