「お前と史緒を2人きりにするわけないだろ」
冷たく言い放つ伊緒くんに対し。
「あいかわらず過保護だなぁ、伊緒は。ブラコンは嫌われるよ?」
と南翔くんは小馬鹿にしたような言い方をする。
「そっちこそ千歳に執着しすぎ、だろ?ストーカーかよ」
「は?」
伊緒くんの言葉に、露骨に嫌そうな顔をした南翔くんは、パシッと彼の手を振り払い、気怠げに席を立つ。
振り払われた手は気にもせず、伊緒くんは無言でそんな南翔くんを見据えていた。
「あの、お客様申し訳ありません。店内でのケンカは他のお客様のご迷惑になりますので……」
30代くらいの男性店員が、不穏な雰囲気を察知したのか店の奥から出てきて2人に向かって声をかける。
「あれって、黒涼高校だよね……?白浪女学院と桃苑女子の制服の子もいみたいだけど」
「なになに?ケンカ……?」
周りにいたお客さんたちも、こちらに注目しつつ、ヒソヒソと何事か囁いている声が聞こえてきて、店内に険悪な空気が流れた。
「すみません。別にケンカじゃないですよ。たまたま昔の友達とあっただけで……。それに僕たちもう帰りますので。行こうか、立栞」
ぐいっと私の腕を引っ張ったのは、伊緒くんだ。
さっきとは打って変わって愛想よく男性店員に微笑みかけた彼は、座っている私の腕をつかむ。



