「……」
「……」
美千子理事長に史緒くんからの学校案内を強制されてから数十分が経った。
しかし、「ここが体育館」「こっち、職員室」など必要最低限の言葉しか発しない史緒くん。
そんな彼に対して、私は内心かなりの気まずさを感じていた。女嫌いという話だが、これはかなり重度なのかもしれない。
「あの…!」
このままでは埒があかないと思った私は意を決して、史緒くんに声をかけてみる。
「…何?」
一瞬間はあったが、無視せず口を開いてくれた史緒くんに私は少しだけ安堵した。
「本当は私に学校案内するの嫌なんだよね…?さっき、女の子苦手って言ってたし、無理しなくても大丈夫だから」
気遣うように声をかける私に、彼は驚いたような表情を向ける。
「私の学校の後輩もね、男の人が苦手な子がいて…。その子見てたら本当に苦手なんだってわかったし。だから、史緒くんも無理しなくていいよって思って」
美心の場合は、特に年齢の近い男性と話すのが苦手みたいで、30代の男性教員相手でも吃ってしまうらしい。
そんな彼女を知っているからこそ、つい史緒くんを気にかけてしまった。