機嫌よく伊緒くんにそう声をかける美千子理事長に向かって「ウザッ」と史緒くんがボソッと呟く。
「……!あ、あの!美千子理事長。私、校内や教室の方も気になるので、そろそろ……」
そんな彼の呟きが届いていないことを祈りながら、私は慌てて理事長に声をかけた。
「そうね。それじゃ、皆もう教室に戻っていいわよ。あと、史緒!さっき『ウザッ』って言ったのちゃーんと聞こえてましたからね。いいわ。あなたがそんな態度なら私にも考えがあります……。西藤さんの校内案内は史緒がすること。異議は認めません。それじゃ、戻りなさい」
「なっ……。おばさん、案内は元々、千歳がやる予定で……」
「是沢くんは会長なんだから忙しいの。案内は史緒がしなさい。あんまり言う事聞かないと兄さんに言いつけますからね」
「……」
最後にピシャリとそう言い放つ理事長に対して、史緒くんはとうとうグッと押し黙ってしまう。
私はそんな2人のやり取りをハラハラしながら見つめていた。
「チッ。わかったよ、千歳。俺が校内案内するから先にクラスに戻っておいて……。ほら、あんたも行くよ」
最後に小さく舌打ちした彼は、諦めたように私に声をかける。
「史緒頼んだわよ。それじゃ、西藤さん。黒涼高校での学校生活楽しんで♡」
「はい……。失礼します」
史緒くんと2人きりって大丈夫かな?
そんな一抹の不安を抱えつつ、足早に理事長室を出ていく史緒くんに続き、私もその場を後にしたのだった。



