「千歳先輩の馬鹿力……」
ボソッと悪態をつく琥太郎くんに対して「ん?何か言った?」と千歳は、爽やかに微笑みかける。
けど、その目は全然笑っていなくて。
それに気づいた琥太郎くんはサーッと血の気が引いて、顔面蒼白になってしまった。
「ほら、千歳も琥太郎をいじめるのはそのくらいにしなよ。理事長室見えてきたから」
伊緒くんに窘められ、未だにプルプルと子犬のように震えている琥太郎くんからようやく視線をそらした千歳は、私に向き直る。
「それじゃ、立栞。うちの理事長に会ってもらうよ」
「えぇ。わかってる」
うちの理事長と電話で話した感じを見ていると、黒涼高校の理事長も相当フレンドリーなのだろうということは伺えたが、初対面のためか私も若干緊張して、表情が強張った。
理事長室の扉の前。
私をエスコートするように「さ。お先にどうぞ、お姫様」なんて、千歳は恭しくお辞儀をする。
そして、カチャッと扉に手をかけ、私に中に入るよう導いたのだった。



