どうしよう、ここにいたら見つかっちゃう。
せっかく逃げてきたのに⋯⋯。
階段付近の物陰は、進行方向からは隠れられるが、階段までやって来たら確実にバレてしまう。
絶体絶命だと思った、その瞬間。
「キャッ⋯⋯んっ!?」
突然、私の背後にあった階段下の物置の扉が開き、口を塞がれた。
そのまま誰かに中に連れこまれ、カチンと身体が硬直した。
しかし、ふわりと香るフローラル系の甘い匂いにハッとする。
この香りって、たしか⋯⋯。
「心葉⋯⋯さん?」
小さく声をかけると、背後からピクリと反応があった。
手の力が緩まり、私はくるりと後ろを振り返る。
「⋯⋯なんで私ってわかったの?」
そこに立っていたのは、あいかわらず長い爪に、派手目のメイク。
そして、今日は、綺麗なチョコレート色の髪をポニーテールにした南翔くんのカノジョ、心葉さんが立っていた。
気まずそうにうつむく彼女に向かって、
「だって、フローラル系の甘い匂いがしたもの。心葉さんに初めて会った時、良い匂いだなぁって思ったからすぐわかったよ」
私はニコッとそう言って微笑む。
一瞬、目を見開いた心葉さんは「なにそれ⋯⋯。1回しか会ってないのに変なの」と小さくつぶやいた。
けど、気まずそうな表情は少しだけ柔らかくなり、フフッと口元をゆるませる。
「というか心葉さんがここに連れ込んでくれないと、危うく体育科の人に捕まるところだったよ。本当にありがとう⋯⋯! でも、心葉さん、何で黒涼に?」
私の問いかけに、またもや彼女の表情に緊張がはしった。



