よし、うまくいったわ!
あと、手加減できる状況じゃなかったし、思った以上に良いところに入っちゃったの。ごめんなさい。
「⋯っ、ぐっ⋯⋯」
痛みで呻く男子生徒に心の中で謝りながら、私は空き教室の出口に向かって足を進めた。
教室の出口まで来た私はいったん足を止め、キョロキョロと左右を確認する。
ガランとした廊下には人っ子ひとり見当たらない。
でも、逆にそれがほんの少し不気味に感じた。
なんで? 誰もいないの⋯⋯?
もしかして、南翔くんと一緒に本校舎のほうに??
嫌な予感が脳裏をよぎり、私の心臓がドクドクと早鐘を打つ。
っ、緊急事態なのに。
この結束バンドのせいで、動きにくくてしょうがない。
後ろ手に拘束された結束バンドを懸命に取ろうと試みるも手首が痛くなるだけで私の力ではどうしようもできなかった。
拘束を解くのを諦めた私はとりあえず、体育科の生徒に鉢合わせする前にと、1階に向かって階段を降りる。
なるべく足音を立てないように注意しながら4階から3階。
そして、3階から2階まで下った、その時だった。
「おい。聞いたか?」
「ん、何を?」
ドキッ。
体育科の男子生徒らしき数人の声が聞こえ、ピタリと足を止めた。
慌てて私は近くの物陰に隠れ、息をころす。
危なかった⋯⋯。
やっぱり下の階には何人か残ってるみたいね。
あのまま気づかずに飛び出していれば、危うく鉢合わせするところだった。
そう考えて、ホッと胸を撫でおろす。
すると、
「ほら今、4階に拘束してる、特進科の女だよ。どうやら、特進科生徒会長様のお気に入りらしいぜ」
「へぇ、だから、南翔さんも気にしてたってわけか」
そんな会話が聞こえてきて、思わず私は聞き耳を立てていた。
「南翔さん、是沢千歳のこと目の敵にしてるからなぁ〜」
「なぁ、お前さその理由って知ってるか?」
「いや? 知らねーけど。普通に是沢が気に食わないとかじゃねぇの?」
「まぁ、それもあるんだろうけどな。実は、俺も噂で聞いたからどこまで本当かわかんねーんだけど⋯⋯。なんでも、南翔さんの大事な人を是沢が奪ったらしいぜ?」
南翔くんの大事な人を千歳が奪った⋯⋯?
それは、いったいいつの話なんだろう。
もし、仮にその噂が真実だとして千歳が南翔くんから奪った大事な人って誰のことなの⋯⋯??
そんないくつもの疑問が頭の中に浮かんでは消えていく。
「ま、あくまで噂だけどな!つか、そろそろ俺たち持ち場に戻らねーとやばいぜ。橋本さんあたりにどやされるぞ」
「そうだな。戻るか」
ん?あれ、嘘でしょ。もしかしてこっちに近づいて来てる⋯⋯?
一人で考え込んでいた私の隠れている方向へ、男子生徒たちの足音がだんだんと近づいてくる。
そのことに気づいた私は、顔面蒼白となった。



