「大丈夫だよ。そんなに警戒しなくても。別に取って食ったりしないって。立栞は大事なお客様だからちゃんと、体育科で、もてなしてあげるし」
一見、見惚れてしまいそうな甘い笑顔の裏に、見え隠れする不穏な気配。
そんな空気感を感じ取り、たらりと冷や汗が頬を伝った。
……捕まったらたぶん、ダメなやつだ。
「……っ」
あそこまで行けば、なんとか逃げ切れるかも。
足の早さはわりと自信がある。
先ほど有紗達が逃げた教室の後ろにある扉を南翔くんに気づかれないよう横目で確認した。
「さ、諦めてこっちおいでよ。立栞?」
未だに余裕な表情で、ジリジリと距離を詰める彼に勘付かれないよう慎重に、私は少しずつ背後にある扉の方に下がっていく。
もうちょっと。
あと、少し――。
そして、駆け出せばすぐに扉から出られる距離まで下がった時。
私は、くるりと踵を返し、出口へ向かって駆け出していた。
虚を突かれたのか、後ろから南翔くん達が追いかけてくる気配はない。
……よかった。とりあえず、千歳達の所に行かないと。
そして、有紗達が無事かどうか確認して……っ!?
ドンッ。
「キャッ……!」
逃げ出した後のことに思いを巡らせながら扉を出た瞬間、誰かにぶつかってその場に座り込む私。
恐る恐る視線をあげると、目の前には先ほど私が転ばせた橋本と呼ばれていた大柄な男子生徒がニヤニヤと不敵な笑みを浮かべて立っていたのだ。



