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「きらり、大丈夫か? 今、熱38度以上あるんだけど、苦しいなら解熱剤を飲んだ方が良いと思う」
 目を開けると私は林太郎の部屋のベッドにいた。

 林太郎が心配そうに私の頬に触れている。

 頭が朦朧としながら頷くと、私は薬を手渡されたので口に入れ渡されたコップの水で流した。

 よく見ると私は部屋着に着替えさせられている。
 彼が私を着替えさせてくれたのだろう。
(恥ずかしいけど、体が熱くて照れてる余裕がない⋯⋯)

「ごめん、迷惑かけちゃったみたいだね。私は大丈夫だから、近づかないで! インフルエンザかもしれないし、うつしちゃったら大変」
 私が言うと、鼻に何かを差し込まれた。
(本当に、林太郎って何をやるかわからなくて怖い)

「今、調べたけどインフルエンザじゃないよ」
 しばらくして彼が言った言葉に、よく病院でやる検査をされたと気がついた。

「風邪だとしても林太郎に映ったら嫌だよ。忙しいでしょ」
 朦朧とする視界に心配そうな林太郎が見えた。

「もっと、きらりの事で忙しくなりたいんだ。きっと、ストレスで熱が出たんだよ。あんなことがあったし、きらりはあんまり目立つの得意じゃないでしょ」
 彼の指摘に心臓が止まりそうになった。

 私は目立つところに連れてかれては、非難を受けることの繰り返しの人生だった。

 会社に就職して新入社員なのに広報誌に出された時も、仕事もまだままならないのにと陰口を叩かれた。

 高校の学祭でネタのような劇の主役に皆から担ぎ上げられた時も、私自身は虐めのように感じていた。

 そんな私に気がついてくれたのは、裏方をやっていた雅紀だけだった。

(だから、彼を好きになったんだった⋯⋯本当の私に気がついて好きだと言ってくれたから)

 チアリーダーになったのも、派手な見た目をしていることで勧誘されたからだ。

 いつの間にかキャプテンに推薦されていて、何とかチームを纏めようと必死だった。

 リーダーシップがあるように自分を演じていたけれど、いつも演じている自分に疲れていた。

 明るくサバサバ振る舞うようにしているのも、自分の派手な見た目に合った性格をしなければという強迫観念からだ。

 本当は今でも失恋を引き摺っているし、才能のある人の前では自分には何もないことに落ち込んだりする。

「うん⋯⋯苦手。今度は何を言われるのか怖くなって緊張しちゃうの⋯⋯」

 熱のせいで弱気になっているのか、私は自分の本音を曝け出していた。

 苺に煽られて3人娘を放って置けなくて、音楽番組に出たけれど三十路でアイドルなんて非難されるのが怖かった。

「ねえ、きらり。今、俺に抱かれたくて仕方がないって顔してるの気づいてる?」

 私は気がつくと、また林太郎に深いキスをされていた。
(え? なんでそんな展開になるの? 本当に理解不能!)