床に髪の毛一本落ちてないところを見ると、彼は相当な綺麗好きだ。

「きらり、今日から車で稽古場に送ってく。それから他のメンバーとグッズについて考えておいて」

「グッズって名前書いたタオルとか? あっ! 変身ステッキとかもか⋯⋯」

「変身ステッキって、それアイドルのグッズじゃないだろ」
 林太郎が爆笑しているが、確かにそれは女の子向けのヒーローもののおもちゃだ。
(ヤバい⋯⋯アイドルに関する知識がなさ過ぎる)

「変身ステッキ風のサイリウムとか可愛いかもね」
 サイリウムは球場で応援の時使ったことがあるから分かる。

 林太郎が徐にメモ帳を取り出して、ステッキ風のサイリウムの絵を描き出した。

「めちゃくちゃ可愛い! それに絵うますぎ! 林太郎はできない事とかあるの?」

「あるよ。人の気持ちが分からないところかな。人の気持ちが分かる人になりたい⋯⋯」
 彼は兄嫁を傷つけたことを気にしているようだ。

 彼は見た目とは異なり繊細な人なんだろう。
 そして、他人を傷つけたくいと願う優しい人だ。

「林太郎、ほとんどの人が人の気持ちを分かった気になってるだけだよ。それに人をわざと傷つける人もいるのに、そんな風に考えられるあなたは十分素敵な人」

 私は雅紀が私の考えていることは手に取るようにわかると、私の理解者を気取りながら裏切ったのを思い出した。

「んんぅ」
 気がつけば私の隣に回り込んだ林太郎にまたキスをされていた。

 彼のキスが私の知っているものとは違くて、気持ち良すぎて訳がわからなくなる。
(クラクラして何も考えられなくなりそう⋯⋯)
 私は怖くなって思い切り彼を突き放した。

「何でキスするの? アメリカではそれが普通?」
「きらり、元彼のこと考えてたでしょ。これから、きらりが元彼のことを考える度にキスすることに決めたから」

 恐ろしい決定事項を発表されて動揺した。