「友永社長、最初見た時は小児患者さんたちに歌ってて良い人に見えたのに⋯⋯」

 私は彼の一部を見て、根っからの悪い人ではないと思い込んでしまった。
 しかし、私を平気で売ろうとしたことを考えると、とんでもない悪人だ。

「友永社長がどんな人か少し調べれば分かったはずだよ。あの人は元歌手だけど売れなくて引っ込んだと思ったら、整形して別名のおネエキャラのタレントとして出てきた。当時そういうのが受けてたからね」

「えっ? あのオネエキャラって作ってるの?」 

「そうだよ。売れるためなら、何でもやってきて売れなかった人⋯⋯きっと、枕とかもやってただろうね」

 私の中でオネエというのはクリエイティブな才能を持った人が多い印象だが、同時に偏見に苦しんできた人たちだ。
 それを狙って演じて売れようとするなんて、何だか酷い。

 枕営業も30年生きてきて、私の周りでやっている人を見たことがない。
(そもそも、友永社長って男なのに男も枕営業があるってこと?)

 今までの自分の常識が通用しない世界から逃げ出したくなる気持ちと、愛しい3人娘を守りたい気持ちが戦っている。

「それから新会社を設立して、『フルーティーズ』を独立させる。社長は梨田きらりで会社名は『果物屋』で一応登録してきた。社名変更は後でいくらでもできるから」

「えっと、私が寝ている間にそんなことが?」

 だんだんと話についていけなくなってきた。
 引越しの時もそうだったが、彼はどんどん自分で決めて実行してしまうので私の頭が追いつかない。

「新しい事務所のテナントも借りてある。バレー教室の居抜き店舗で、メンバーの家からは今よりも通いやすくなると思う」
 私は苺やりんごや桃香がどこに住んでいるかも知らない。
 彼はいつの間にかそんなことも調べて、新事務所の場所まで借りたらしい。

「お金は? 東京にテナントとか借りたら賃貸料半端ないんじゃ。それに会社設立も資本金とか⋯⋯」
 私の今までの知識じゃ、彼の展開の速さと行動力についていけない気がした。

「それは気にしなくて良いよ。俺のポケットマネーだし」
「そんなの悪いよ。林太郎にお金出してもらう理由なんてない! ちゃんと私が払うよ」

 はっきり言って雅紀に貢ぎ過ぎて、私の貯金は底をついている。 

 だから、チビチビと返済するしかないが、3人娘の貞操を守るためには独立一択だろう。