「ちょっと、何すんのよ。それに、なんで服脱いでるの?」
 きらりに腹を思いっきり蹴られた。

 俺は一応鍛えているが結構痛い。
(すごい蹴りだ⋯⋯そして、なぜ⋯⋯)

「なんでって、きらりがそうして欲しいのかと思ったから」
 俺は脱いだ服を悲しい気持ちを抱えながら着た。

「はあ、何言ってるんだか。今朝もう関わりたくないって言ったでしょ。林太郎は私のこと好きなの? それなら、この関係は終わり。私はあなたを好きになることはないし、アイドルをしている以上、疑われるような関係は迷惑なの」

 今まで、自分もきらりと同じようなことを異性に言ってきた気がする。
(気持ちが迷惑とか、言われるとこんなキツイのか⋯⋯)

「俺はきらりが好きだよ。こんなベッドしかない部屋に連れてこられたら、誘われているのかって思うのは仕方ないよ」
 ベッドしか大型家具のないような独房のような部屋に連れてきて、その気はなかかったという彼女の本心が分からない。

「ちゃんとキッチンもあるでしょ。お昼時だし、適当にご飯作るから食べたら仕事行きなさい。社長に就任したのにサボってたらクビになるわよ」
 きらりは、ベッドから立ち上がると小さなキッチンで料理をしだした。

 俺が社長を解任になるのではないかと心配しているのだろうか。

 俺は小さい頃からとりわけ優秀で、人から心配をされたことがない。
 何だか新鮮すぎて、余計に俺は彼女のことが気になってしまう。

「大丈夫だよ。きらりは俺の仕事のことは心配しないで。それより、本当にここに住んでいるの?」
「ここじゃなかったら、どこに住んでるのよ。パスタで良い?」

 小さな冷蔵庫を開けて、食材を出して料理している彼女を見ているだけで楽しい。
「うん。ありがとう」
 俺は小さなテーブルの前で正座をして、彼女が料理を作り終わるのを待った。

 トントンという包丁がまな板を叩く音とはこんなに心地よいものだとは思わなかった。
 この独房のような狭い空間で大好きな彼女と2人きりだなんて、よく考えれば幸せ過ぎる。

 ピンポーン
 その時、俺が不安に思っていた音が鳴った。