全身が怒りと悲しみで震えてきた。
 今すぐこの場で暴れ出して、雅紀の人生もめちゃくちゃにしてやりたい。
(だって、私、明日どんな顔で会社に行くの? 不倫女扱いだよ? 14年以上私と雅紀は付き合ってたのに⋯⋯)

 富田ルナの隣にいる私にやっと気がついたのか、彼が真っ青な顔で私を見ている。

 彼の左手の薬指には、いつもはない結婚指輪がはめられていた。

「富田雅紀さんは、私の知ってる富田雅紀さんですか? 同じ高校だったんですけど覚えていますか? 梨田きらりです」

 私は震える声を落ち着かせながら、最近では毎晩のように私の部屋に入り浸っていて結婚の話まで出ていた彼氏に挨拶をした。

「梨田さん。覚えているような、覚えていないような。今日は病院に何かご用ですか?」
 昨晩は、私の家で寛いで結婚雑誌を見ていた男だ。
 今、顔色ひとつ変えずに私を他人のように私を扱うなんて本当に酷い男だ。

 彼は私が彼に惚れているのを心底分かっている。
 私は彼しか男を知らなくて、彼と結婚する未来しか想像していなかった。
(私が雅紀との将来を夢見てる間、他の子と子供まで作って結婚までしてたんだ⋯⋯)