テレビ局に到着し運動がてら階段で控え室に行こうとすると、階段の踊り場でタバコを吸っている男の子がいた。

 彼には見覚えがある。

 『イケダンズ』の不動のセンター倉橋カイトだ。
 彼はプロフィールによると18歳になったばかりのはずだ。
 キラキラの好青年を演じているのに、実際はかなり擦れてそうだ。
「ここはタバコを吸う場所じゃないですよ。それに成人年齢が18歳になっても喫煙は20歳からです」

「なんだお前、うるせーな。誰に向かって口聞いてるんだよ」
「倉橋カイトさんですよ。かなりキャラ作ってるんですね。タバコで喉がダメになっているから、いつも口パクなんですか?」

 喧嘩腰で偉そうにされたので、つい対抗してしまった。

「カイト! ここにいた。今からリハーサルだって」
 非常階段に続く扉が開いて、サラサラのロングヘアの美少女が顔を出した。

 彼女は『フルーティーズ』の元メンバーである黒田蜜柑15歳だ。
 『フルーティーズ』の3人娘が幼い可愛い系であるのに対して、彼女は大人っぽい綺麗系の子だった。

 『フルーティーズ』は元々彼女を売るために、果物の名前の可愛い子を集めて作ったグループだったらしい。

 しかし、プライドの高い蜜柑は媚びたようなアイドルの挨拶やハグ会を嫌がったという。

 今、彼女はアイドル活動以外にも『フィフティーズ』というファッション雑誌の専属モデルもしている。
 要するに熱量が違ったという以上に、方向性が違ったのだ。

 倉橋カイトは私を一瞥すると、タバコを床にポイ捨てして去っていった。
(裏の顔が酷すぎだろ。最低だな、倉橋カイト!)