「全く理解できないですね。受かるべき試験にさえ受かってないのに、危機感が足りない! 梨田さんは恋愛経験豊富そうに見えますが、あまり学生達を誑かさないでくださいね」

 軽い感じで言われた言葉は私の胸を突き刺した。
(ああ、また私は軽い女として扱われている⋯⋯)

「私は14年付き合って結婚までしようと思ってた男に昨日振られた挙句、仕事も失った情けない三十路です。いっそ見た目通り恋愛経験豊富だったら、こんな惨めになっていません」

「すみません、俺、今すごく失礼なこと言いましたよね」

 慌てて謝ってくる為末さんに返事をするように私のお腹が「グゥ」となった。
(ひええ、恥ずかし過ぎる)

「お腹空いてますか? お詫びにランチ奢りますよ」

「私ここを7時まで離れられないんです」
 自分で言っていて、5時間席を外せない仕事は決して楽ではないことに気がついた。

「俺、買ってきます。ちょっと待っててください」
 そう言って手を振ってきた為末さんに手を振りかえした。
 私はこの時の彼との出会いが、自分の運命を変えるとは思ってもみなかった。