「見て、昨日の騒動について社内に一斉にメールを送ろうと思うの。きらりは被害者なんだよね。それなのに、辞めるなんておかしいじゃない」

 私のために必死になってくれる玲香の目には涙が浮かんでいる。
 でも、こんなメールを出したら玲香にも迷惑がかかってしまう。

「玲香、情けないけど、私そんなにこの会社に未練がないんだ。本当にお金稼ぐためだけに働いていたようなもんだし」
「そんなのみんな一緒だよ。8年も一緒に頑張ってきたのに、こんなのってないよ!」
 私が泣いてないのに玲香がポロポロと泣きだした。
 その様子を受付の子達がコソコソと見ている。

「玲香、あんたみたいな友達ができたから私はもう十分。私が男だったら絶対にあんたと結婚したいってくらい、あんたが大好き」
 私は玲香の耳元でそう囁くと手を振って出口に向かった。

「きらり! 私もだよ。困ったらなんでも言って! 私たちは一生友達だから! 家賃に困ったらうちに来てシェアハウスでもしよ!」
 泣きながら笑顔で手を振る玲香に私も手を振り返した。

 若い受付の子達は私と玲香のやり取りをバカにするように笑っているけれど、これが女の友情だ。

 8年もの間、同期がどんどんやめていく中でセクハラやパワハラにお互い耐えながら支え合い、時に苛立ちに任せて喧嘩しながら築いた絆だ。
(そうだ!収入がなくなるから東京に住み続けるには直ぐに家賃を稼がなきゃ!)

 ルナさんに玄関くらいの広さと呼ばれた私のワンルームの部屋も、月15万円と私に取っては高めの家賃だ。

 東京の家賃の高さは異常だが、社会人になって8年も一人暮らしをしていると今更実家は頼れない。
 正直、退社した理由も含め親には仕事を辞めたことを報告できない。

「新しい仕事、すぐにでも探さなきゃな」
 私はふと昨日貰った芸能事務所の名刺を出した。
 とりあえず、そこで事務仕事でも貰いながら定職を探すのがベストかもしれない。

 雅紀に貢ぎ過ぎたことや東京の家賃の高さもあり、ここで住み続けるにはとりあえずお金が必要だ。
 私は昨日貰った名刺を見て、芸能事務所『バシルーラ』に連絡を取った。

 事務所は古めの雑居ビルの4階にあった。
(中に入るなり、服脱がされたりしたらどうしよう⋯⋯)

 ラララ製薬はピカピカの高層の自社ビルだった。
 そこから、古いエレベーターが一機しかない雑居ビルに来たからか少し怖気付いてしまう。

「わーお! 素敵! 来てくれたのね。梨田きらり」
 芸能事務所の社長、友永寛太は私を見るなり感嘆の声をあげた。