僕が通っている高校は全国に一つしか無いとされる小中高大、全ての学年が一括してあるエスカレーター式の学園だ。

 女人禁制で男子のみの入学と定められている。

 更には、皇族や名家の生まれが通うため、カースト制度も当然まかり通っている。

 この学園は、身分や能力が全ての実力主義なのだ。


 そんな中、キリトは何の不自然さもなく、制服を着て学校にしれっと馴染んでいた。
 堂々と僕の隣を歩ける精神にある意味尊敬する。
 僕は学年としては高等部一年だが、犬神家の嫡男という点で学校でも最上位近くの存在だからな。
 隣に並べる奴は、片手ほどに少ないというのに。
 触らぬ神に祟りなし、と遠巻きに眺める生徒が大半なのである。

 おかげでキリトと廊下を歩く度に周囲は騒然としていた。
はぁ、だるいな。

 やがてキリトを連れて教室に入ると、空気が途端に静まり返る。
 クラスメイトは皆無言で僕の隣にいるキリトを見た。
 そりゃいきなりクラスメイトが増えた挙げ句、僕の隣を独占する奴が現れるなんて誰も思いもしなかっただろう。
 しかもとびきりの美形だから尚更目を引くに違いない。

 キリトは数多の視線を浴びせられても気にせず無視して微笑みながら僕を見下ろしていた。
キリトは僕の右隣だった。
チッ、席まで近いのかよ。

 最悪、と思いながら席に着くと、左隣から声をかけられる。



「さくたん、おはよー。
 いつのまに犬なんて飼いだしたの?
 それも強そうな猛犬」



 人当たりの良さそうな笑顔で過激な発言をするソイツを横目で見た。

東雲由瑠‐シノノメ ヨル‐。

 東雲家は犬神家と同じ特殊能力をもつ一族で古くから交流がある名家だ。
 由瑠はその東雲家の次期当主で、幼い頃に顔合わせをしてからずっと腐れ縁的な感じで絡んでいる。
 目にかかる前髪から覗く目は翡翠の色をしていて、肩より少し下に茶髪を流している。
 由瑠は基本的に穏やかな性格をしているが、実はそこそこ腹黒だ。
 特に、平気で人を変なあだ名で呼んでくるから嫌なんだよな。



『由瑠、さくたんはやめろ。
 あと、犬なんか飼ってないし。
 コイツは護衛だ』



 手練れた元暗殺者を堂々と犬呼ばわりするとは流石は由瑠だ。
 由瑠は能力の行使にも長けているが、暗殺術も心得ている。
 それ故に恐らくキリトの正体にも勘づいているのかもしれない。

 まぁ、そんなことは僕にとってはどうでもいいけど。
 鞄から教科書やノートなどを取り出して、机の上に出す。



「初めまして、キリトでーす。
 ご主人様に友達がいることに安心してる!」



 キリトは身を乗り出して、由瑠に挨拶をした。
 若干嫌味を言われながらも元気で笑顔なキリトに由瑠は珍しく目を丸くしていた。
 見た目ははんなりしてそうだが、キリトはかなり神経が図太いからな。
 煽るのが無駄に上手な上に、煽られ耐性まであるのが恨めしい。

…ていうか。


「一言余計なんだよお前!」

『えー、だってご主人様短気だし、
 友達少なそうじゃん』

「…本気でその口縫ってやろうか??」


 ギャーギャーと言い合う僕達を由瑠はどことなく面白くなさそうに鼻を鳴らす。


「ふーん、主人と護衛ねぇ。
 ま、いいんじゃない?
 咲耶は昔から護衛つけてなかったし、
 ヒヤヒヤしてたから」


 頬杖をついて僕を視界に入れる由瑠の目は到底良いとは思ってないように見えた。
ん?なんでコイツ不機嫌になってるんだ?   
 反対にキリトがキラキラと目を輝かせて僕に迫ってきた。



「え、そうだったの?
 ボクがご主人様の初めて!?」



くそ、由瑠め、余計な情報流しやがって!
 ねぇねぇ、と僕が答えを出すまで諦めないキリト。
面倒極まりない反応に段々苛々してきた。



『お前が僕の最初の護衛なのは認めるが、
誤解される言い方はやめろ!』



やっぱりコイツとは一生合わない気がする。