護衛だと名乗る元暗殺者に夜這いされかけた次の日。

僕はげっそりしながら制服に着替えていた。

 ちなみにキリトというらしい護衛は一晩経った今も未だ部屋の中にいる。


「ねぇ、その赤い瞳綺麗だね。
 飴玉みたい!」


 ネクタイを結んでいたら、音もなく眼の前に現れたキリト。
 じいっと興味津々に僕の目を覗き込んできた。
 暗殺者らしい身のこなしに驚いたものの、身を引くだけで声は上げなかった。

 僕への敬語をすっ飛ばしてるのはもう諦めるとして。
飴玉とか…、よりにもよってグロテスクな。他に表現の仕方なかったのかよ。

そう思いながらも淡々と返した。



『…犬神家の嫡男の証だからな』

 

犬神咲耶‐イヌガミ サクヤ‐、それが僕の名だ。
 もともとは分家出身だったのだが、この瞳を本家に知られ、嫡男として引き取られたのだ。

 全国有数の名家である犬神家は、特殊能力継承者で構成されている。
 能力者であることは前提として、一つの伝統を重んじているのである。

 それは、“赤い目”をもつ男が当主を継ぐこと。
 不幸なことに、赤い目は現当主と僕以外におらず、本家の子どもには生まれなかったらしい。
 それ故に僕がわざわざ引き取られた理由だ。
 別にこの目は嫌いじゃないが、それだけが自分の存在理由のような気がして嫌だった。


 少し暗い顔をする僕にキリトは他人事のように笑う。


「へぇー!特別なんだね!!」
 

 明るいところで接するキリトは、背が高くも子どもみたいな童顔と振る舞いをする変な奴だった。
昨日の狂った感じは見えない。
 それどころか朗らかな笑顔のせいか、むしろ無害に見える。
目の錯覚か?



『…まぁな』

 

キリトの言葉に真顔で頷いた。
特別なんて、そんなの偶然にすぎないのに。



「というか、ご主人様って高校生なんだね!
 てっきり中学生かと思ってたよ」

『殺すぞ』



失礼な従者の足に容赦なく蹴りを入れた。



「痛っ!そんな怒らないでよ!」

『うるさい、無礼者』

「わー、そのセリフ漫画でしか聞いたことない!」

『黙れ』


 コイツ、ナチュラルに煽ってくるから腹立つんだよな。
 キッと思い切り睨みつけても、ヘラヘラ笑うキリト。



「あはは、おもしろ。
 でも、ご主人様学校に行っちゃうのかー。
 つまんないな」



 口をすぼめて肩を落とす素振りをするキリト。

僕は解放されて清々するがな。
 コイツを置いて、さっさと学校へ行こうと鞄を掴んだその時。

キリトが何かを閃いて、ポンと手を打った。



「あ、そっか。
 ボクが生徒に変装して護衛してればいいんだ」



 そしたらどこでも安心だね!としたり顔をするソイツに僕は石化した。
な、何いってんだ、コイツ!?


『お前成人してんだろ…?』

「2、3歳くらいさば読んでもバレないでしょ!
 てことで許可取ってくるねー!」

『おい、待て!!!』



 慌てて止めようにも、奴は既に姿を消していた。

 そして、数分後許可を取り終えたキリトは、僕と同じ高校生に成りすまして戻ってきたのだった。

 家どころか学校までコイツと一緒とか本気で嫌なんだけど!!