誰もが寝静まったであろう真夜中。


 布団の上から腹部に重圧を感じ、苦しくて目が覚めた。
 すると、至近距離でランランと輝く金色の瞳と目があった。
 その瞬間、知らない不審者に馬乗りにされていることを理解した。


『っ!?』


どこぞのホラー漫画かよ!?


「あ、バレちゃった」


 驚いて声を出そうとしたが、不審者に手袋をはめた片手で口を塞がれてしまった。
そして、もう片方の手は僕の首を掴む。

くそ、コイツ手練れてやがる…!
僕のことを殺す気か?

 ソイツは、綺麗な白髪に怪しく光る金色の瞳をもつ男だった。
 中性的でパッと見て女に見えないこともないけど、多分男。
 逆にこんな力強い女いたら引くわ。


「しぃーっ、ね?
 殺さないから安心して」


 男は僕の口から手を剥がすと唇に人差し指を当てて、艶やかに微笑む。
 そんなことはどうでもいいから早くどけよ…!


 『っ、何が目的だ、お前!』


 僕は起き上がり、ソイツを上からどかそうとしたが、ソイツはググッと僕をベットに押さえつけてしまう。


「おー、力強っ、流石犬神。
 ボクの目的?
 君の味見かなぁ。
 あ、八重歯かーわい」


 片手で僕の両頬を掴むと頬骨を押さえると、無理やり口を開けさせられ覗き込まれる。
コイツ、完全に僕で遊んでやがる!!


『ふざけるな!
 こんな暗殺みたいな真似しやがって…!』


 その手を払い睨みつければ、ソイツは肩を竦める。


「仕方ないじゃんか、僕は元暗殺者だし。
 叫ばれそうになったら、つい本能でやっちゃうんだよ」


 言い訳にもならないことをしれっとした顔で言うから尚更腹が立つ。


『本能で人を殺す馬鹿がいるか!』

「ごめんってー。
 実のところ、もともとは犬神家の嫡男である君の暗殺を依頼されてたんだけど。
 この屋敷に忍び込んだら秒で捕まってボコされたんだよね」


ケロッと話すソイツに呆れた。

だろうな。
 犬神家は代々特殊な能力をもつ名家で、戦闘能力だけでなく探知能力に長けたやつもゴロゴロ居る。
 そんな化け物しかいないウチに入り込める奴なんて早々いないわ。


『何してんだよお前…』

「いやー、首ちょんぱされるかなとか思ったけど。
 ボクが所属するマフィアで一番強いって言ったら、君のSPになってくれって頼まれてさ」

『はぁ!?正気かよ!?』


 今コイツさらっとマフィアって言ったよな!?
 コイツを雇おうと思った人間の気が知れない。
マフィアから引き抜くとか危険すぎるだろうが!

 それに、元暗殺者に元暗殺対象者を護衛させるとかムリに決まってる。
 いくら顔や腕が良くても挨拶も何もなしに主人を襲ってくる従者とか要らんわ!!


「いやー、給料も割に合うし、見せられた君の写真にノックアウトされちゃってねぇ」


 男は僕の頬に手を添えると、ニコォと妖しく歪んだ笑みを浮かべる。
 あまりの悪寒に背中がゾワゾワした。
 本来美しいはずのソレに、僕は恐怖しか覚えなかった。  
 どうやら僕はヤバイ奴に気に入られてしまったらしい。


「ボクの名前はキリト。
 これから死ぬ気で守るから…、
 よろしくね?ご主人様」


 目にハイライトがなくて怖すぎる。
 完全にイッてる奴の目だよ…、誰か助けてくれ!!!