「お待たせいたしました」と、シェフからお皿が差し出された。「エッグベネディクトでございます」
ポーチドエッグの土台に薄切りカマンベールを並べ、ナイフを入れると黄身がとろりと流れ出し、チーズと一緒にオランデーズソースと絡み合う。
「フレンチトーストも少しお時間をいただきますので、ごゆっくりお召し上がりください」
「お願いします」
昨日交差点でしゃがんだ時はこのまま自分が死ぬんじゃないかと思ったくらいだった。
なのに、一晩たって朝を迎えたらこんな天国みたいな場所にいるなんて、と史香は自然と沸き起こる笑みを押さえることができなかった。
――本当に天国にいるわけじゃないよね。
ナイフを置いてそっとほっぺをつねるとちゃんと痛かった。
でもこれ、夢じゃないってだけで天国かどうか見分ける方法じゃないか。
そんなどうでもいいことを考えているうちに、エッグベネディクトを完食していた。
ああ、もっとちゃんと味わえば良かった。
あまりにもおいしいものを食べると、そんな余裕はなくなるらしい。
「フレンチトーストでございます」
次に出されたお皿を見て史香は目を丸くしていた。
――何これ?
その様子を見てシェフが満足そうにうなずく。
「こちらのフレンチトーストは卵液につけただけでなく、スクランブルエッグをまとわせ、さらにバーナーでキャラメリゼしたものでございます」
表面は茶色くパリッとしていて、中はふわっふわ、なのにパンはしっとりしていて、なんとも手の込んだ味わいだった。
絵画というか彫刻というか、もうこれ料理というよりは芸術じゃないの。
あっという間にフレンチトーストも完食し、史香は最後にもう一度マンゴーをじっくりと味わった。
こんな贅沢な料理を好きなように食べられるなんて、ここが病院だなんて信じられないな。
「紅茶をどうぞ」
下げられた皿の代わりに置かれた紅茶は香りが深く、カップに口を近づけただけで鼻がすっとする。
なのに味は意外とあっさりしていて、おなかに優しそうだった。
何もかもが計算され尽くしている。
そんな朝食を史香は心から堪能していた。
「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」
「それは何よりです。ありがとうございました」
調理スタッフがみな頭を下げて病室を出て行く。
ベッドへ戻ってスリッパを脱いだ史香に看護師さんが薬を差しだした。
「こちらはめまいのお薬です。症状が治まっても朝は飲むようにと指示が出ています」
「分かりました」
水で流し込んでベッドに横になると頭がぼんやりとしてくる。
「おなかいっぱいで眠くなりましたか?」と、看護師さんが布団を掛けてくれる。
「ええ、本当においしかったです。病院食とは思えませんね」
「ノースタウンのオーベルジュと契約してますからね」
看護師さんは当然といった口調で笑みを残すと病室を出て行った。
オーベルジュみたいじゃなくて、本当にそうだったなんて。
いったいこの病院、どうなってるんだろう。
ポーチドエッグの土台に薄切りカマンベールを並べ、ナイフを入れると黄身がとろりと流れ出し、チーズと一緒にオランデーズソースと絡み合う。
「フレンチトーストも少しお時間をいただきますので、ごゆっくりお召し上がりください」
「お願いします」
昨日交差点でしゃがんだ時はこのまま自分が死ぬんじゃないかと思ったくらいだった。
なのに、一晩たって朝を迎えたらこんな天国みたいな場所にいるなんて、と史香は自然と沸き起こる笑みを押さえることができなかった。
――本当に天国にいるわけじゃないよね。
ナイフを置いてそっとほっぺをつねるとちゃんと痛かった。
でもこれ、夢じゃないってだけで天国かどうか見分ける方法じゃないか。
そんなどうでもいいことを考えているうちに、エッグベネディクトを完食していた。
ああ、もっとちゃんと味わえば良かった。
あまりにもおいしいものを食べると、そんな余裕はなくなるらしい。
「フレンチトーストでございます」
次に出されたお皿を見て史香は目を丸くしていた。
――何これ?
その様子を見てシェフが満足そうにうなずく。
「こちらのフレンチトーストは卵液につけただけでなく、スクランブルエッグをまとわせ、さらにバーナーでキャラメリゼしたものでございます」
表面は茶色くパリッとしていて、中はふわっふわ、なのにパンはしっとりしていて、なんとも手の込んだ味わいだった。
絵画というか彫刻というか、もうこれ料理というよりは芸術じゃないの。
あっという間にフレンチトーストも完食し、史香は最後にもう一度マンゴーをじっくりと味わった。
こんな贅沢な料理を好きなように食べられるなんて、ここが病院だなんて信じられないな。
「紅茶をどうぞ」
下げられた皿の代わりに置かれた紅茶は香りが深く、カップに口を近づけただけで鼻がすっとする。
なのに味は意外とあっさりしていて、おなかに優しそうだった。
何もかもが計算され尽くしている。
そんな朝食を史香は心から堪能していた。
「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」
「それは何よりです。ありがとうございました」
調理スタッフがみな頭を下げて病室を出て行く。
ベッドへ戻ってスリッパを脱いだ史香に看護師さんが薬を差しだした。
「こちらはめまいのお薬です。症状が治まっても朝は飲むようにと指示が出ています」
「分かりました」
水で流し込んでベッドに横になると頭がぼんやりとしてくる。
「おなかいっぱいで眠くなりましたか?」と、看護師さんが布団を掛けてくれる。
「ええ、本当においしかったです。病院食とは思えませんね」
「ノースタウンのオーベルジュと契約してますからね」
看護師さんは当然といった口調で笑みを残すと病室を出て行った。
オーベルジュみたいじゃなくて、本当にそうだったなんて。
いったいこの病院、どうなってるんだろう。


