その日、里桜からのメッセージで史香の妊娠を知った蒼馬は佐久山を呼んだ。

「すぐに車を」

「どちらまで」

「どんなことをしてでも彼女に会いたいんだ」

「かしこまりました。BCコマースでよろしいですね」

「ああ、頼む」

 はやる気持ちを静めることなど無理だ。

 なりふり構ってなどいられない。

 配慮とか遠慮とか社会的常識とか、そんなものを気にしていたのがまずかったんだ。

 ――なぜだ、史香。

 なんで相談してくれなかった。

 落ち着け。

 俺は責めようとしているんじゃない。

 ただ、会って話がしたいだけなんだ。

 リムジンがツインタワーに到着する。

 中層階用のエレベーターからオフィスに駆け込むと、蒼馬は当惑顔の受付スタッフに史香への面会を申し入れた。

「どういったご用件でしょうか」

「道源寺蒼馬が来ていると伝えてください」

 と、そこへ課長がやってきた。

「道源寺様でございますね。わたくし黄瀬川の上司の菅原と申します。大変お世話になっております」と、頭を下げると、そのまま受付スタッフに顔を向ける。「すぐに黄瀬川さんを呼んできて」

「分かりました」と、スタッフが奥へ駆けていく。

「このたびはわざわざ弊社までお越しいただきありがとうございます」

 課長の挨拶など耳に入ってこない。

 適当に受け流していると、うつむき加減に史香が現れた。

 まだ体つきはそれほど変わっていないが、明らかに顔色は良くない。

 心臓が破裂しそうなほどに鼓動を高める。

 全身から汗が噴き出しそうなほど体が熱い。

 ――落ち着け。

 やっと会えたんじゃないか。

 あくまでも紳士でいろ。

 蒼馬は課長にたずねた。

「業務中申し訳ありませんが、二人だけで話をしたいので、外へ出てもいいでしょうか」

「ああ、それでしたら、弊社の小会議室が空いておりますので、そちらをお使いください」

「ありがとうございます」

 後を託して課長たちがオフィスに戻っていく。

 史香は同僚の目を気にしてか、とくに抵抗することなく自ら小会議室へ蒼馬を案内した。