青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました

「それで、チークの入れ方だけでも全然印象変わりますから。目元との対比を意識して色を使い分けると全然仕上がりのバランスが違うんですよ」

 と、ブラシが一本しかないことに驚いている。

「いつもこれって、逆に器用じゃないですか。ブラシはやっぱり太めと細めで最低でも二本使い分けた方がいいですよ」

「中くらいので兼用できない?」

「うーん、やっぱり違いますよ」

 ――だって面倒なんだもん。

 鏡の中の自分がどんどん変わっていく。

 さすがに女優と比べるほどおめでたくはないけど、地味な自分もやり方次第で見せることができるんだなと感動するレベルだった。

「私、撮影の時とかに、メイクさんに聞くんですよ。『これって、どういう意図があるんですか』って、明るい顔とか、暗い顔とかだけじゃなくて、悲しい表情に合うメイクとか、ライティングとかも関係するんで、そういうやり方を知っておくと今の自分がカメラにどう写るかとか、演技しながら分かるんですよ」

「へえ、そうなんだ」

 そこまで考えながらやってるのに壁に当たるって、大変なんだな。

 ――違うか。

 そこまで考えてるからこそ、次へ進むための壁にぶつかってるんだ。

 いつの間にか里桜を応援している自分がおかしくて笑ってしまう。

 予備の布団は毛布一枚しかないから、エアコンを高めに設定して寝ることにした。

 史香にとって初めての女子お泊まり会の翌日、二人はアパート近くの牛丼屋さんで朝定食を食べてから、同じ電車でベリが丘までやって来た。

 駅を出て里桜が大きく手を振る。

「史香さん、ありがとうございました」

「気をつけてね」

 まあ、昨日みたいな変質者はいないだろうけどね。

 ただやっぱり、マスクと帽子で顔は隠せても、オーラは消せないらしい。

「ねえ、あれ、久永里桜じゃない?」

 気づいた人たちが噂をしている。

「えー、うそぉ。ちょっと似てるだけじゃない?」

「だって、ベリが丘に住んでるでしょ」

「セレブがラッシュ時の電車使うわけないって」

「そっかあ。だよね」

 そういうことにしておいてください。

 心の中でそう願いながら、史香はツインタワーの職場へ向かった。