青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました

「私、今になって思うんですけど、なんでも蒼ちゃんを理由にしちゃってたのかもしれないんです」

「理由?」

「女優にならなくちゃって思ったのも蒼ちゃんに振り向いてもらいたかったからだし、留学したいって思うようになったのも蒼ちゃんがアメリカに行ったのがきっかけだったし、逆に留学をあきらめたのも、帰ってきた蒼ちゃんと離れたくなかったからだし。全部蒼ちゃんのせいにしてたなって」

 ――そっか。

「だから、なんか、ようやく吹っ切れたっていうか、自分の中でちゃんとしなくちゃっていう気持ちになれました」

 そして、里桜はテーブルに手をついて史香に頭を下げた。

「どうもありがとうございました」

「いや、あの、お礼を言われるようなことはしてないから」

 むしろ、ストーカーされるほど恨まれても仕方のないことだ。

 里桜が思いがけないことをつぶやいた。

「私、女優辞めようかなって思ってるんです」

「どうして?」

「女優として、なんか壁にぶつかってるっていうか、自分がやりたいこととは違うんじゃないかって思うようになってるんです」

 親が元芸能人で生まれた時から女優になると定められていて、まわりからはちやほやされていても、悩んでいたのか。

 人気女優といったって一人の人間。

 なんでも手に入れたようで、何もつかんでいない。

 ――あれ?

 それって、蒼馬と同じ?

「里桜は女優に向いてると思うよ」

「向いてないわけじゃなくて、このままじゃ嫌だなっていう感じですかね」

「成長してるってことなのかもね。止まってたら目の前に壁があってもぶつからないじゃない」

 史香は仕事でうまくいかないことがあると、そんなふうに考えてきた。

 ただ、その真面目さが体を壊す原因になったわけで、向上心とのバランスの取り方が下手だと言われたら反省するしかなかった。

「ああ、そうなのかなあ」と、里桜は自信なさげに首をかしげた。「でも、どの仕事もたしかに慣れてきてるって感覚はありますね」

「私、『十年後』の……って、あの映画を見て泣いちゃってね。里桜の演じる女の子がまるで自分みたいで、感情移入しちゃって。今までそういうことがなかったから自分でもビックリしちゃって」

「ありがとうございます」と、告白された女の子みたいにはにかむ。「今まで聞いた中で一番うれしい感想だったかも」

 首をかしげたまま口元に笑みを浮かべてため息をつく。

「でも、それがうまく伝わる人と、受け取ってもらえない人っているんですよね。万人に受ける演技っていうのはないのかも知れないけど、私はたくさんの人に受け止めてもらいたいなって思うんです」

「できるんじゃないかな」と、根拠はないけど、史香の本心だった。「まだ若いけど、キャリアはあるから早い段階で壁にぶつかっちゃったのかもしれないし」

「そうなんですかね」と、里桜も納得したようにうなずいている。「なんか、ストーカーしちゃったくせに、悩み事相談までしてもらっちゃってすみません」

 勝ち気なようで、意外と素直な子なんだな。

 人前に出る仕事だから、自然と強気なキャラに見られてしまうのかもしれないし。