青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました

「史香さんは親切だし、私みたいな馬鹿なストーカーにまで優しくしてくれるんですから」

 あ、そう言えば、その話、忘れてた。

 その話題になるかと思ったら、里桜は話を元に戻した。

「史香さんって、苦手なことってないんですか」

「恋愛とか……かな」と、言ってしまって後悔する。

 まるで自分がそっちの話をしたいみたいだ。

「それってさっきの話と同じじゃないですか。感情を見せるのが苦手って」

「ああ、そうかも」

「でも、たぶん、それが史香さんの感情表現なんですよ。それをちゃんと受け取ってくれる人がいれば伝わる」

 なんとか話を戻せたかと思った時だった。

 里桜が斜め上に視線を巡らせた。

「それがきっと、蒼ちゃんだったんでしょうね」

 ああ、やっぱり、その話になるか。

 それはそうだよね。

 史香は観念して正面から向き合う覚悟を決めた。

「蒼ちゃんと……したんですか」

 真っ直ぐに見つめられて真っ赤になってしまう。

「そっか」と、里桜がクスッと笑ってうつむく。「抜け駆けされちゃった。史香さんの泥棒猫」

「でも、一晩だけの約束だから、ただの……遊びというか、その……」

「蒼ちゃんはそんな人じゃありません」と、顔を伏せたまま里桜が語気を強めた。

 ――え?

「史香さんは蒼ちゃんがそんな人だと思ってるんですか」

 いえ、あの……。

「蒼ちゃんはいつも私を大事にしてくれました。史香さんのことだって本気です」

 テーブルにぽたりと涙が落ちる。

「だから……だから悔しいんだもん」

 なんと声をかけてあげたら良いのかまるで分からない。

 しばらく、相手が泣くままに史香もじっとうつむいていた。

「でも、これで良かったのかも」

 ――え?

 顔を上げると、里桜が涙でぐしゃぐしゃの顔に晴れ晴れとした笑みを浮かべていた。

「私も夢があったんですよ」

「あれっ、女優になることじゃなかったの?」

「それもそうなんですけど、イギリスで勉強したくて」

「へえ、そうなの」

「シェイクスピアとか、そういう演劇の勉強を本場で取り組んでみたくて。日本の大学で学べたら良かったんですけど、私、その前にデビューしちゃったから」

「ああ、二足のわらじは難しいものね」

「でも、できることはやっておきたいから、英語の勉強は続けてるんですよ」

 ――偉いんだね。

 史香はそう思ったが声には出さなかった。

 自分は素人なのに、なんだか上から目線みたいだったし、それがどの程度の努力なのかも分からないで言うことでもないと思ったからだ。

 仮に、ただ単に英会話のお勉強という程度なら、史香とたいして変わらないレベルになる。