最後の一粒まできれいに食べた里桜がぽつりとつぶやく。
「私、中一のバレンタインで初めてチョコレートクッキーを焼いて蒼ちゃんにプレゼントしたんですよ。そしたら、生焼けで、でも、無理して食べた蒼ちゃんがおなか壊しちゃって。小中高とずっと皆勤賞だったのに、その時だけ学校お休みしちゃったんですよ」
なんとも微笑ましいエピソードだ。
蒼馬には気の毒だけど。
「なんでなのかな。料理が下手な人って、変なアレンジとかしがちって言うじゃないですか。だけど、私はいつもちゃんとレシピ通りに作るんですよ」
「だからじゃないですか」
「えっ」
「クッキーの作り方に『百八十度のオーブンで九分加熱』とか書いてあると、その通りにセットするでしょう」
「だって、そうやって書いてあるんですよ」
「だけど、実際には、その時の室温とか、生地の温度とか、分量によっても焼き加減は変わるし、あと、家庭用のオーブンって、熱のまわり方に結構ムラがあるから、均一に加熱されないことが多いですよね」
「そんなこと言われたって」と、里桜が頬を膨らませる。「でも、その通りに作らないと、『変なアレンジするから』とか言うじゃないですか」
「料理する人は、レシピももちろん大事だけど、目の前の素材の様子を見て調整するのよ。クッキーの色を見て、もう少し加熱した方がいいかなとか、自分で考えるのよ」
「そんなの、分かりませんよ。どうやったら、できるようになるんですか」
ふと、会社の後輩を思い出して笑ってしまった。
菜月の場合は笑い事じゃないんだけどね。
「久永さんだって……」
「里桜でいいですよ」
いきなり蒼馬みたいなことを言い出した。
「ええと……里桜さんは」
「『さん』じゃなくて、呼び捨てでいいですって。私の方が年下ですよね」
「じゃあ、里桜ちゃんは……」
「『ちゃん』は子供扱いされてるみたいで嫌です」と、キッパリ。
ああ、もう、難しい。
「里桜……は、演技する時に、台本通りなの?」
「それはちゃんとその台詞の通りに言いますよ。自分で勝手に変えたら作品が台無しになりますから」
あ、と何かに気づいたように目が見開く。
「言葉は変えませんけど、言い方というか、声のトーンとか、そういうのは自分なりに考えますね。その人物のその場面での気持ちとかを自分なりに考えて表現します」
「私は逆にそういうのがよく分からないタイプかな。だから、いつも誰に対しても同じように接して、感情が読めないとか、冷たい感じがするとか言われることが多いかも」
里桜はテーブルの上に手を伸ばすと、史香の手に重ねた。
「全然冷たくないですよ」
手の温度じゃないんだけど、と言いかけて口をつぐむ。
まさに、そういうところだ。
「私、中一のバレンタインで初めてチョコレートクッキーを焼いて蒼ちゃんにプレゼントしたんですよ。そしたら、生焼けで、でも、無理して食べた蒼ちゃんがおなか壊しちゃって。小中高とずっと皆勤賞だったのに、その時だけ学校お休みしちゃったんですよ」
なんとも微笑ましいエピソードだ。
蒼馬には気の毒だけど。
「なんでなのかな。料理が下手な人って、変なアレンジとかしがちって言うじゃないですか。だけど、私はいつもちゃんとレシピ通りに作るんですよ」
「だからじゃないですか」
「えっ」
「クッキーの作り方に『百八十度のオーブンで九分加熱』とか書いてあると、その通りにセットするでしょう」
「だって、そうやって書いてあるんですよ」
「だけど、実際には、その時の室温とか、生地の温度とか、分量によっても焼き加減は変わるし、あと、家庭用のオーブンって、熱のまわり方に結構ムラがあるから、均一に加熱されないことが多いですよね」
「そんなこと言われたって」と、里桜が頬を膨らませる。「でも、その通りに作らないと、『変なアレンジするから』とか言うじゃないですか」
「料理する人は、レシピももちろん大事だけど、目の前の素材の様子を見て調整するのよ。クッキーの色を見て、もう少し加熱した方がいいかなとか、自分で考えるのよ」
「そんなの、分かりませんよ。どうやったら、できるようになるんですか」
ふと、会社の後輩を思い出して笑ってしまった。
菜月の場合は笑い事じゃないんだけどね。
「久永さんだって……」
「里桜でいいですよ」
いきなり蒼馬みたいなことを言い出した。
「ええと……里桜さんは」
「『さん』じゃなくて、呼び捨てでいいですって。私の方が年下ですよね」
「じゃあ、里桜ちゃんは……」
「『ちゃん』は子供扱いされてるみたいで嫌です」と、キッパリ。
ああ、もう、難しい。
「里桜……は、演技する時に、台本通りなの?」
「それはちゃんとその台詞の通りに言いますよ。自分で勝手に変えたら作品が台無しになりますから」
あ、と何かに気づいたように目が見開く。
「言葉は変えませんけど、言い方というか、声のトーンとか、そういうのは自分なりに考えますね。その人物のその場面での気持ちとかを自分なりに考えて表現します」
「私は逆にそういうのがよく分からないタイプかな。だから、いつも誰に対しても同じように接して、感情が読めないとか、冷たい感じがするとか言われることが多いかも」
里桜はテーブルの上に手を伸ばすと、史香の手に重ねた。
「全然冷たくないですよ」
手の温度じゃないんだけど、と言いかけて口をつぐむ。
まさに、そういうところだ。


