歯に染みるようなビル風が吹き抜けていく。
里桜は史香をにらみつけたまま歩道の真ん中から動こうとしない。
どこか暖かいところに移動したいけど、べつに話があるわけでもない。
困惑していると、里桜の表情に、幽霊でも見たかのような狼狽の色が現れた。
――え?
後ろから足音が近寄ってきたかと思うと、史香の脇をすり抜けて何者かが里桜に駆け寄っていく。
「里桜たん!」
誰?
史香だけでなく、里桜も動揺している。
ちょっと太めの男がゾンビのように両手を突き出しながら、人気女優に遠慮なく迫っていく。
「ずっと見てたよ。里桜たんがノースエリアのゲートから歩いてくるのをつけてきたんだ」
腕をつかもうとする男をなんとかかわして里桜は史香の方へ逃げてきた。
「ちょ、えっ!?」
「お願い、助けて」と、背後に隠れる。
「誰なの?」
「知らない人」
――ストーカーのストーカー?
現実が頭に入ってこなくて、そんなどうでもいい言葉を思い浮かべてしまう。
「おまえ、邪魔するなよ!」
男が鈍く光る物を取り出した。
サバイバルナイフだ。
「僕の里桜たんが他の男の物になるなら、僕がそのきれいな顔を切り刻んであげるよ」
里桜にはコートをつかまれるし、足がすくんで身動きがとれない。
男は邪魔な史香に真っ直ぐ突っ込んでくる。
と、その時だった。
暗闇から黒服の男が飛び出してきたかと思うと、二人の前に立ちはだかった。
「下がって」
スーツ姿の佐久山だ。
迫ってくる相手の腕をつかみ、腰を支点にくるりと豪快な背負い投げを決めると、流れのまま歩道の石畳に組み敷いた。
ナイフが乾いた音を立てて滑っていく。
あまりの見事な決まり方に相手も呆然と動けずにいる。
「さ、お二人とも、あちらのお車へ」
佐久山が顔を向けた方にリムジンが止まっている。
「後のことはわたくしどもにお任せください」
気づけば、佐久山の他にも何人かの黒服の男たちがまわりを取り囲んでいた。
ストーカー男を引き渡した佐久山がリムジンのドアを開けてくれる。
「間に合って何よりでした」
「どうもありがとうございました」
「ふ、ふみかすゎん」
動揺した里桜は顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっている。
命を落とすかもしれなかったのだ。
史香だって動揺しているものの、他人の泣いている姿を見ているとなんとかしなければと冷静になれた。
「佐久山さん、久永さんのお宅はご存じですか」
「はい。道源寺家のすぐ近くですので」
里桜にきつく手を握られる。
「史香さん、一緒にいてください」
「じゃあ、私のアパートまでお願いします」
「かしこまりました」
史香が住所を告げると、リムジンは静かに発進した。
「あぁ」と、声も体も震わせながら里桜が子供のように手の甲で涙を拭う。「こわ……ひっく……かったです」
「大丈夫。もう、大丈夫だからね」
さっきまで敵対視してきた相手を慰めることになるとは。
笑うわけにはいかないけど、なんだか不思議な気分だ。
里桜は史香をにらみつけたまま歩道の真ん中から動こうとしない。
どこか暖かいところに移動したいけど、べつに話があるわけでもない。
困惑していると、里桜の表情に、幽霊でも見たかのような狼狽の色が現れた。
――え?
後ろから足音が近寄ってきたかと思うと、史香の脇をすり抜けて何者かが里桜に駆け寄っていく。
「里桜たん!」
誰?
史香だけでなく、里桜も動揺している。
ちょっと太めの男がゾンビのように両手を突き出しながら、人気女優に遠慮なく迫っていく。
「ずっと見てたよ。里桜たんがノースエリアのゲートから歩いてくるのをつけてきたんだ」
腕をつかもうとする男をなんとかかわして里桜は史香の方へ逃げてきた。
「ちょ、えっ!?」
「お願い、助けて」と、背後に隠れる。
「誰なの?」
「知らない人」
――ストーカーのストーカー?
現実が頭に入ってこなくて、そんなどうでもいい言葉を思い浮かべてしまう。
「おまえ、邪魔するなよ!」
男が鈍く光る物を取り出した。
サバイバルナイフだ。
「僕の里桜たんが他の男の物になるなら、僕がそのきれいな顔を切り刻んであげるよ」
里桜にはコートをつかまれるし、足がすくんで身動きがとれない。
男は邪魔な史香に真っ直ぐ突っ込んでくる。
と、その時だった。
暗闇から黒服の男が飛び出してきたかと思うと、二人の前に立ちはだかった。
「下がって」
スーツ姿の佐久山だ。
迫ってくる相手の腕をつかみ、腰を支点にくるりと豪快な背負い投げを決めると、流れのまま歩道の石畳に組み敷いた。
ナイフが乾いた音を立てて滑っていく。
あまりの見事な決まり方に相手も呆然と動けずにいる。
「さ、お二人とも、あちらのお車へ」
佐久山が顔を向けた方にリムジンが止まっている。
「後のことはわたくしどもにお任せください」
気づけば、佐久山の他にも何人かの黒服の男たちがまわりを取り囲んでいた。
ストーカー男を引き渡した佐久山がリムジンのドアを開けてくれる。
「間に合って何よりでした」
「どうもありがとうございました」
「ふ、ふみかすゎん」
動揺した里桜は顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっている。
命を落とすかもしれなかったのだ。
史香だって動揺しているものの、他人の泣いている姿を見ているとなんとかしなければと冷静になれた。
「佐久山さん、久永さんのお宅はご存じですか」
「はい。道源寺家のすぐ近くですので」
里桜にきつく手を握られる。
「史香さん、一緒にいてください」
「じゃあ、私のアパートまでお願いします」
「かしこまりました」
史香が住所を告げると、リムジンは静かに発進した。
「あぁ」と、声も体も震わせながら里桜が子供のように手の甲で涙を拭う。「こわ……ひっく……かったです」
「大丈夫。もう、大丈夫だからね」
さっきまで敵対視してきた相手を慰めることになるとは。
笑うわけにはいかないけど、なんだか不思議な気分だ。


